第5話 対立する貴族!

あれから時が過ぎ、季節は夏になろうとしていた。この世界にも四季という物は存在しており、春季、夏季、秋季、冬季で表される。入学や卒業といった行事は春の催しとなっている。次の季節は夏で全員参加が義務付けられている『魔法競技大会』と呼ばれる催しがあるが、その前に試験が待っている。内容は一般教養や専門知識のペーパー試験と魔法実技試験に分かれる。紙は貴重であるが、文字はインクがあれば魔法で複製できるし、インク部分を紙から剥離する事で白紙に戻す事もできるので、試験にも紙とインクが用いられるのだ。実技試験は魔法の規模や威力、発揮される効果、照準の正確さなどを測定する。試験の最終日には魔力測定や身体測定も行われる。こちらは身長や体重などの計測に加え、専用の魔法具で魔法力、魔力量、属性優位を調べるものだ。


「もうすぐ試験かぁ……」


休み時間に、レイが嫌そうな顔をして話しかけてくる。どこの世界でも試験は嫌なものだ。アレクはレイと違う意味で試験が嫌だった。なぜなら彼は――


「魔法が使えないのに魔法実技試験ってどうするんだろうな……。補習とか退学とかにならないよね……」


そう。入学してすでに3ヶ月が経とうとしているが、アレクは未だに魔法が使えないでいる。レイは座学が苦手であるが、多少なりとも魔法が使える。すでに水魔法に加え、風魔法も少し使えるようになっていた。


「まあ流石に退学にはならないと思うぜ」


「そうかな……それならいいけど」


一度王立学院へ入学した以上、別の王立学院へ入学する事はできない規則だ。それに、アレクにはどうしても魔法が使えるようになりたい理由わけがあった。


「魔法が使えないなら自分から退学すればいいのにね」

「ほんと。試験なんて受ける意味ないよな」

「むしろ魔法学院に居る資格もないんじゃない?」


離れた席からアレク達に蔑むような視線を向けるグループがあった。わざと聞こえるように話しているのはミゼットのグループだ。入学以来、彼らとは上手く行っていない。先日、部屋でレイと話していた時に孤児院の話を出したせいで、自分たちが孤児院出身の貧民である事をミゼット達に聞かれてしまった。それからというもの、部屋でも嫌味を言われる事が多く、部屋の掃除や各週で回ってくる風呂やトイレなどの共用部分の掃除も押し付けられる事があった。掃除当番はB組、C組の単位で回ってくるので本来は協力して行うものだが、彼らにそんな意思はない。当番をさぼってもC責任になるだけなので、仕方なく従うしかなかった。


「文句があるなら直接言ったらどうだ?いつも影からこそこそしやがってよ!」


レイがその場で立ち上がり、怒って叫ぶ。他の生徒から注目を浴びるが、女子からはまたやってる……と声が上がるが、レイもミゼットも気にした様子はない。


「貧民風情が。品位の欠片もないな」


ミゼットはレイの怒号を笑い飛ばす。それにつられてミゼットのグループから笑いがこぼれる。ミゼットの父親は王国で伯爵位を授かっており、貴族の中でも地位は高いほうだ。令息であるミゼットは嫡男である兄を差し置いてグリーン家当主の座を狙っている。そのためのコネクション作りに自分の家より位の高い家を尊重しているが、位の低い家柄や平民、貧民の事は完全に見下している。


ちなみに貴族の中では公爵が最上位で侯爵、伯爵、子爵、男爵と続く。その中でも公爵を持つ貴族は数えるほどしかおらず、国の重要な役職についている。公爵、侯爵、伯爵を合わせても貴族全体の2割程度らしい。そして、貴族は家名が与えられ、その一家は名前の後ろに家名を名乗るようになっており、家名を持たない者は爵位を持たない平民、貧民の類である。


「貧民とか貴族とか、今は関係ないだろ?」


この学院では学院の方針で貴族位は関係ない。力こそ正義のなのだ。現生徒会会長であるエドワードを倒せば、例え王子であっても在学中は軍門に下る事になる。一番人間が生徒会長になり、役員は会長の権限で就任、解任ができるようになっているのも実力社会であるが故にだ。


「付き合いの話だよ。卒業すれば上級貴族や王族とのコネがどれだけ大切になるか……。それすら理解出来ないから一生貧民なんだよ」


ミゼットの表情は崩れない。対するレイは今にも殴り掛かりそうに拳を握りしめている。その様子を知ってか知らずか、ミゼットは続けた。


「それにさ、お前ごときが俺に勝てると思ってんの?」


「このクラスにお前に勝てる奴なんていねーっての」

「ほんとほんと!身の程知らず」


ミゼットに続いて、グループの人も調子に乗っていた。レイはそれ以上、何も言えずに握りしめた拳を一層強く握りしめた。俺はレイの肩に手を置く。そこで休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴り、教師が入ってきたのでミゼット達は解散していく。


いつか……きっと――。

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