第4話 初めての魔法実技!
翌日から授業が始まった。まず1年生は一般教養に加えて、魔法の専門知識の授業だ。ここでいう一般教養は文学、計算、歴史の事だ。魔法の専門知識は魔法基礎学、魔法薬学、魔法生物学がある。入学式からしばらく経ち、アレクは授業に励んでいた。彼が今受けているのは『魔法基礎学』で魔法の知識や魔法発動までのプロセスなど、基本的な内容だった。
この世界で魔法を使うためには自身の魔力を魔法に変換する必要があり、使用する属性や等級によって消費する魔力が異なる。また、個人間でも得意属性や苦手属性が存在し、得意属性の魔法は魔力消費が抑えられ、発動もしやすい。
「ずっと座学もなんじゃ。ここらで実際に魔法を使ってみるかの」
そう言って杖を取り出した銀髪翠眼の教師はアザゼル・シルバーで基礎魔法学の教師である。彼は温厚な性格で、出来不出来関係なくゆっくり授業を進めるのが特徴だ。
「これは授業用の杖でな、魔力の流れを感じやすくなる効果が付与されておる」
魔法基礎学の授業で使われる杖は魔力の流れを感じやすくする半面、魔力消費が増加し、魔法効果が半減するという短所がある。魔法効果が付与された杖は高価な物であるが、この杖は実践向きではないため、安価で取引されていた。そのため、生徒全員分である30本の備品がある。
「一番具現化しやすいのは水系統の魔法じゃ。目にも見える分、発動するのも分かりやすい。使う魔法じゃが、今回は水系統初級魔法の
アザゼルの指示で全員が杖を手にし、一同は訓練塔のそばにある訓練場にやってきた。訓練場の入り口以外は防壁で囲まれており、強力な対魔法防御が施されている。訓練場内には的となる人形が10体、横にずらりと設置されており、その人形目掛けて魔法を放つようになっている。ちなみに人形には『自動修復』の魔法効果が付与されており、土台さえ破壊されなければ無限に修復が可能な代物だ。
「では、まずは儂が手本を見せる」
アザゼルが右手で杖を構え、人形に向けながら説明を続ける。
「まずは集中して自身の中にある魔力を高めるのじゃ。魔力の高まりを感じたら、水の玉をイメージする。さらにその水の玉を人形に向かって放つイメージで魔法を唱えるのじゃ」
「清らかな水の流れを撃ち放て
アザゼルの杖から水の玉が出現し、人形に向かって発射される。見事人形に当たると水しぶきが舞う。
「ほれ。簡単じゃろ?これを今から皆にやってもらおう。人形は10体しかないから順番にな」
当然、
まずは集中して、魔力を高める……。
杖に魔力を流す感じで……
水の玉……球体で大きさは……人の頭ぐらい……
人形に向かって……
「清らかな水の流れを撃ち放て
……
…………
シーーーーン
アレクは4度目となる詠唱を終えるが、未だ魔法が発動する兆候すら見えずにいた。
「清らかな水の流れを撃ち放て
パシャーン!!
「おわっ!?」
「きゃっ!?」
隣で練習していたレイの魔法がその場で弾けて水しぶきが舞う。アレクとレイともう一人レイの反対側で練習していた生徒――リアは水しぶきを受けてびしょびしょに濡れていた。
「はははは――」
「だっせー」
すでに魔法を発動でき、待機しているクラスメイトが笑い出す。笑いの中心はミゼットだった。彼は事ある毎に俺たちの失敗を笑う。すでに彼とその取り巻き達はミゼットのグループとして認識されていた。
「こりゃ。笑ってたら集中できんじゃろ。合格者は休憩時間として良いから教室に戻りなさい。お前さん達も濡れたままではしょうがなかろう。着替えてきなさい。他の生徒は練習を続けるのじゃ」
アレクとレイは着替えるために宿館の部屋に戻ろうとするが、リアはうずくまったまま動かない。
「大丈夫?」
アレクはリアが心配になって声をかける。リアはこくりとうなずいて返答するが動かない。
「ほら、行こう?」
アレクはリアの手を引き、立ち上がらせた――。濡れたままの制服からリアの下着が透けて見える。ピンク色の可愛らしい下着……。しまったと思ったが時はすでに遅かった。
「きゃっ、きゃぁぁぁぁぁ」
リアの悲鳴と共に、女子からは最低、ひどいと軽蔑の眼差しを向けられるのだった。後からバスタオルを持ってきた先生――おそらく女子の誰かが呼んだのだろう――がやってきて、リアと一緒に宿館の方へ戻っていく。
「ほら。お前さん達も早く行かんか」
アレクはアザゼルに言われるまで固まってしまっていた。事の発端はレイにあったが、迂闊な行動をしてしまったアレクにも責任がある。宿館に戻ったアレク達は着替えながら反省していた。
「大きな玉を意識してたら人形に向かって撃つのを忘れちまってさ……」
「それであんな大きな水玉を目の前で破裂させた訳か……」
アレクの魔法は発動しなかったが、レイは魔法を発動させていた。少し悔しい気持ちもあるが、今はリアに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。着替えが終わると、2人は再び訓練場へ向かった。
アレク達が訓練場に着くと残った生徒は2人を含めても3人だけだった。2人にアザゼルが声をかける。
「戻ったか。授業時間は後20分しかない。それまで頑張りなさい」
2人は返事をして課題に取り組むのであった。
「結局最後まで魔法は発動せずかぁ……」
授業が終わり、昼休みになると、2人は食堂を訪れていた。残り時間をフルに使ったが、アレクの魔法は発動しなかったのだ。対してレイは見事に
「そんなに落ち込むなって。簡単な魔法だし、そのうちできるようになるさ」
レイは昼食を食べながら気楽そうに話す。まだ始まったばかりなんだから気にする事はない――。アレクもそう思っていた。
「大丈夫さ。そんな落ち込んでない。魔法が使えないのは昔からだったし……」
そう。アレクは物心ついた時から魔法の練習をしていた――はずなのだが、その時の事を思い出そうとすると頭にモヤがかかったように思い出せない。その時も魔法が使えなかったような気がする。
「……レク……。アレク!」
昔の事を思い出そうとしていたが、レイに呼ばれて我に返る。レイの顔がすぐ近くにあってびっくりした。
「ったく、ぼーっとしてると次の授業遅れしまうぜ」
「そ、そうだね。急ごうか」
2人は次の授業を受けるために教室に移動する。昼休みの間、食堂に彼女は――リアは現れなかった。教室に戻ってもリアは姿を見せず、授業は欠席するそうだ。アレクはリアに謝りたかったが、それは夕食の時にも叶うことはなかった。
翌日、校医の教師からの配慮でリアの席は廊下側に移動し、代わりに男子生徒がアレクの隣になった。食堂の席も同様だ。リアからは相変わらず避けられており、顔を合わせてもすぐに逃げられてしまい、結局謝る事はできなかった。
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