第3話 入学歓迎会!
ガーネットは教壇を降り、教室を去っていく。
「なんだよあいつ……。教師のくせに俺たちを見下しやがって。しかもいきなり魔法をぶっ放してくるなんてよ」
ガーネットが教室から出るとアレクが不満そうに話しかけてくる。確かに、新入生に対する教師の態度としては最低だと思う。この学院では実力主義なのは確かだし、入学前に行われた試験や面接結果が現在のクラス割りになっていた。身分を問わず、実力主義とは言うが、幼少期から魔法の訓練を受けた貴族が優秀なのは言うまでもないだろう。なぜミゼットやアリスといった貴族のがC組にいるのかは謎だけど……。
周囲の人達も隣同士で愚痴り合っている。そして、前の席――アリスとミゼットの周りには人だかりができていた。
「アリスさんすごいんですね。さっきの魔法見ました!私も使えるようになりたいわ」
「もう魔法が使えるなんて凄いですわ」
クラスの女子の一部はアリスに取り入ろうとして話しかけている。アリスはそんな事ないよと謙虚に対応している。反対にミゼットは――
「さすがはグリーン家の次男だな」
「さすがミゼット様。ご立派でしたよ」
「ふん。これぐらい当然さ」
といい気になっていた。こちらもミゼットに取り入ろうとする人達――男子の方が多いが、女子も混ざっている――に囲まれていた。
◇
今日は授業らしい授業はなく、オリエンテーションがメインで、学院でのルールや各施設の説明があった。そのまま食堂で昼食を取り、宿館に案内される。アレク達C組の部屋は3号館の4階にあった。中央の階段を上り、男子は東側、女子は西側に分かれている。部屋は階段側から4年、3年、2年、1年の順になっており、部屋には1年C組と書かれたプレートがかかっていた。
「なかなか広い部屋じゃないか」
一番に部屋へ入ったのはミゼットだ。彼に続いて取り巻きとなった生徒7名が部屋に入る。それから遅れて残った生徒、アレクとレイが入室する。中は教室よりは狭かったが、男子生徒18人が暮らすには十分な広さがあった。ベッドはすべて収納付きの2段ベッドになっており、廊下側に2台づつ、両側面に2台づつ、合計8台が2段で……16床しかなかった。
アレク達が部屋に入った時、ミゼット達は取り巻きと共に、すでに部屋の西側を占拠していた。残るベッドは東側にある8床、しかし、残る生徒は10人。どう見ても2人分のベッドが足りない。
「おい、どうするんだよこれ……」
生徒の一人が呟く。それを聞いた他の生徒が動揺し、我先にとベッドに向かっていった。
「あ、ずるい。俺も!」
「俺も俺も!」
西側のベッド争奪戦が始まった――。10人による争奪戦は激しいものになったが、宿館管理の先生がやってきて終わりを迎えた。
「アレクとレイ。お前たちの
2人が向かった先にあったのは倉庫、その中にしまわれていた古いソファを運ぶように言われたのだ。ソファと布団を2人で部屋に運び、アレクとレイはそのソファで寝る事になった。なぜアレクとレイなのかは
「あいつらにはお似合いのベッドだな」
ミゼット達が遠くで笑って話している。いくら成績順とはいえ、理不尽さを感じたが、仕方ない事だと割り切る。元々孤児院で暮らしていた彼らにとっては十分贅沢な暮らしなのだ。しかし、レイは拳を握りしめている。
「レイ」
「ああ。わかってるよ」
アレクが注意しようとするとレイはミゼット達から視線を外して荷解きの作業を続ける。それを見て興が削がれたのか、ミゼット達は大人しくなり、部屋から出て行った。しばらく部屋で過ごして、入学歓迎会の30分前に食堂へ向かうのだった。
◇
アレク達が食堂前に到着すると残り数人を残すだけですでにほとんどの人が集まっていた。C組の列を確認すると最後尾に並ぶ。上級生は会釈すると食堂に入っていく。
「どんな料理が出るか楽しみだな」
隣にいるレイは食事が気になってしかなたい様だ。孤児院で出る食事は貧しいものが多く、レイはしょっちゅうそれを気にしていた。自分も楽しみでないと言えば嘘になる。魔法学院での食事は貴族も混ざるし、何といっても今日は入学歓迎会だ。豪華な料理がでるに違いない。
「新入生、入場!」
副学院長が号令し、A組から食堂内に入場していく。
食堂内は大きな長机が4列並んでおり、左側から学年順に着席している。左からネクタイ、リボンのカラーがブルーなのが最上級生である4年生、続いてイエローの3年生、レッドの2年生、そして自分達が一番右側の席に座るグリーンの1年生だ。さらにその奥、一段上がった先に教師達の席があった。来賓もどうやら教師席にいるらしい。
2列で入場した彼らはテーブルの左右にそれぞれ分かれて進む。レイとアレクは席の最後尾でお互いに向かい合うように座る形になった。アレクの隣にはリアが座っている。
「学院長挨拶!」
教師席の中央に座る初老の男性が腰を上げる。
「学院長のリットマン・フォーティじゃ。まずは入学おめでとう。君たちはこれから魔法の数々を学ぶ事になるだろう。しかし、学院はあくまで通過点でしかない。先を見据え、君たちの夢に向かって勉学に励んでいくように。長い話は苦手なので、最後に一言だけ。この王立魔法学院の生徒として、誇りと自覚を持って行動して欲しい。以上だ」
学院長は話が終わると自分の席に腰かけた。それを見て副学院長は次の項に進む。
「祝辞、在校生代表エドワード・レグリット!」
3年生の列の先頭の生徒が立ち上がり、振り向く。その赤みがかった金髪の少年に見覚えがあった。先ほど城門で声をかけてきた人だ。
「この魔法学院に入学した60名の新入生達、入学おめでとう。さて、君たちは今、4年生を差し置いてなぜ、3年生である私が挨拶をしているのか不思議に思っている事だろう。王子だから?生徒会長だから?優秀だから?いや、違う。私がこの学院で一番強いからだ。この学院では実力がすべてだ。この学院で生き残りたければ努力し、力を身につけろ。いずれ正式な試合で君たちの挑戦を受けるのを楽しみに待っている」
言い終わるとエドワードは席に着く。さすが王子だけあって威圧感がある。その発言に誰も口を開くことができなかった。
「新入生挨拶、代表トゥナ・ブラウン」
祝辞を受けて新入生の最前列に居た少女が立ち上がり、それに応える。
「先生方、先輩方お祝いの言葉をありがとうございます。まだまだ右も左もわからない新米ですが、先生方、先輩方の教えを受け、努力を惜しまず、切磋琢磨し、いずれ上級生に勝利できるように頑張って参りますので、ご指導よろしくお願いします」
トゥナは一例して席に着く。トゥナの挨拶が終わったのを確認して、各テーブルに料理が運び込まれる。アレク達の前に置かれた料理も肉や野菜など色とりどりである。グラスには果実を絞った飲み物を準備してあった。
「では、堅苦しい挨拶もこれぐらいにして、乾杯に移ります――」
会食が始まると、レイは料理に夢中で、リアは相変わらず人見知りな感じだ。上級生や新入生もA組、B組では交流があったが、C組はほとんどなかった。ここでも格差がある事を実感する。そして、新入生歓迎会は熱狂冷めやらぬうちにお開きとなった。
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