第2話 底辺のC組!

「おっはよー!」


レイが元気に扉を開けて中に入る。すでに教室に集まっていた生徒たちはレイの声に振り返り、クラス全体から注目を浴びる。アレクはその後に続き、教室に入った。


「やあ、初めまして。僕はミゼット。ミゼット・グリーンだ。これからクラスメイトとしてよろしく頼むよ」


ミゼットと名乗るエメラルドグリーンの髪の少年が声をかけてきた。顔立ち、礼儀がしっかりしており、一目で良いとこの出身だと感じさせる。さらに、眼は特徴的な深い翡翠色をしていた。


「おう、俺はレイ。んでこいつがアレクだ。よろしくな」


レイが右手を出して握手を求める。しかし、ミゼットと名乗る少年は彼の手を取らなかった。


「すまない。話す相手を間違えたようだ。がそこにと邪魔だから早く消えてくれないかな」


ミゼットは見下すような視線でレイを見て話すと入り口近くの席に戻っていく。レイは拳を握りしめ、ミゼットに向かおうとするが、アレクが止める。


「待って。さすがにここで騒ぎを起こすのはまずいよ」


入学初日にトラブルを起こすと後の学院生活にどんな影響があるかわからない。まして退学にでもなったら目も当てられないのだ。


「……。チッ!分かったよ」


レイはアレクに従って自分の席を探す。教室内は3人掛けの長机が横に2つ、縦に5つ並んでおり、正面の教壇には席順が張られていた。アレクとレイの席は一番後ろの窓側の席だった。レイが窓側、アレクが中央、通路側には暗い茶髪の少女が座っていた。


「よろしく」


アレクは隣に座る少女に挨拶をして自分の席に着いた。少女はこくりと頷いて小さく返す。


「よ、よろしく……わ、私は……リア……」


「俺はアレクだ」


アレクが名乗ると、リアは俯いてしまった。話が苦手なタイプなのだろう。アレクは気にしない事にしてレイと雑談を始める。しばらく話しているうちに始業時間となり、鐘が鳴った。


教室の出入り口から紅い髪と瞳を持った教師らしき人物が入ってくる。教壇に立つと持ってきた名簿を投げ捨てて言う。


「今日からこのクラスの担当となるガーネット・クラウンだ。貴様らは底辺の底辺、せいぜい俺の名前に泥を塗るような真似はしないように」


教師の話を聞いた生徒達がざわつき出す。自分達の担当と名乗った教師がいきなり底辺だの顔に泥を塗るななど言い出したのだから当然だろう。ガーネットは生徒達の様子を見て


「気高き炎よ燃え上れ、吹き荒れろ炎の爆風フレア・バースト!」


ガーネットの詠唱が終わり、魔法が発動すると熱を帯びた風が舞い始め、生徒に襲い掛かる。炎の爆風フレア・バーストは火系統の中級魔法で習得難易度はBランクの魔法だ。本来の効果は炎を纏った爆風で周囲の敵を攻撃するものだが、彼が発動したものは威力を抑えており、熱めの熱風を起こす程度にしてある。


「っ!?」


熱風を浴び、肌がチリチリと焼ける感触がする。苦痛に顔を歪ませながらもアレクは周囲を確認してみた。レイは――


「あちっ!なんだよこれ!」


騒いでいた。隣のリアは怯えた様子でうずくまっている。教室のあちこちで悲鳴や叫び声が聞こえているが、魔法で熱風に対抗している人もいた。


「清らかな水の流れで我を守る水の加護アクア・ヴェール!」


最前列に座っていたアクアブルーの髪をした少女は水の壁で自分を覆い、身を守っている。水の加護アクア・ヴェールは水系統の初級魔法で習得難易度はEの簡単な防御魔法だ。


「大いなる風よ我が意思のままに風の支配ウインド・コントロール


同じく最前列に座っている……ミゼットだ。彼は自身の周囲に風を纏わせ、熱風を避けている。風の支配ウインド・コントロールは風系統の初級魔法で習得難易度はCの魔法だ。


2人以外に魔法を使う者は居なかった。それを確認したガーネットは魔法を解除する。ガーネットが魔法を解除した事で続いていた熱風がピタリと止み、全員に聞こえるように言う。


「お前らの実力はこんなもんだ。魔法を使えたのはたった2人だけ。それ以外は状況判断もできない、魔法も使えない。騒ぐだけのクズどもだ。水魔法を使ったお前と風魔法を使ったお前、2人は前に出ろ」


教師に言われて2人の生徒が教壇に向かう。アクアブルーの髪の少女は恐る恐るといった感じで歩いているが、ミゼットは堂々と歩いている。2人が教壇に上がるとガーネットが口を開く。


「底辺のC組にしちゃ上出来だ。お前ら2人は評価してやる。皆に自己紹介しとけ」


ガーネットに促され、2人はこちらに振り返った。お前からだと少女に向かって顎で指示する。


「あ、アリス。アリス・エールです。水系統の魔法が得意……です」


アリスと名乗る少女は緊張した様子で自己紹介を行った。彼女の顔立ちは整っており、かわいいというよりはきれい系に近い感じだ。瞳は特徴的な淡い青色をしており、水魔法が得意なのも頷ける。この世界で瞳の色はその人物が持つ特異属性を示す事が多い。少女の自己紹介に続き、ミゼットが一歩前に出た。


「ミゼット・グリーンだ。グリーン家の次男だが、いずれは親父の跡を継ぐ。得意魔法は風の中級魔法風の暴風ウインド・ストームだ」


ミゼットは堂々と自慢するように自己紹介を行っていた。まるで自分の力をアピールするように……。ミゼットの自己紹介が終わると再びガーネットが口を開く。


「いいか?この学院は実力がすべてだ。学ぶ権利は平等にあるかもしれんが、持ち得る力は平等ではない。すでにクラス割りの時点でC組であるお前たちは底辺だ。その中でもA組に上がる可能性があるのはこいつらだけろう。他の人間は底辺らしく、せいぜい2人の引き立て役として頑張ってくれ。じゃあお前らも席に戻れ」


アリスとミゼットが教壇を降り、自分の席に着いたのを確認してガーネットは続ける。


「で、入学歓迎会についてだが、来賓も来る。全員参加していいが、失礼のないようにな。場所は3号館1階の食堂で行われる。これから朝、昼、夕と食堂で食べる事になるが、時間に遅れた者は食事抜きになるから注意しろ。17時までに食堂前に集合、並びは2列でアリスとミゼットが先頭、後は前から席順な。会場への入場はにA組から行い、お前らは最後。30分後にオリエンテーションを行うので教室に集合するように。以上だ!」


一通りの説明が終わるとガーネットは教壇を降り、教室を去っていく。ガーネットに口答えしようとする者は一人も居なかった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る