第6章 謎の富豪婦人 51
シェリーは金策に走り回った。
まずは銀行に融資を頼んでみたが、あっさりと断られた。アシュビー家がガーランド商会に騙されたということが、すでに広まっていた。アシュビー家のワイナリーに投資しても、回収が難しいという見方をされていたのだ。
そこで、シェリーは有力な貿易商にもあたってみたが、どこもほぼ相手にされなかった。
しかたなくシェリーは街の高利貸しを訪ねてみた。
ロルティサでは有名なブレイクという高利貸しだった。
太って赤ら顔のブレイクは狡猾な顔をしていた。
「お貸ししてもいいですが、抵当には家や領地をお願いします」
そう前置きして、ブレイクは法外な金利を提示した。
「ブレイクさん、ワイナリーは確実な売り上げをもたらします。それまでの間だけのことです。この金利は高すぎます」とシェリーは言った。
ブレイクは笑った。
「私は慈善事業をしているわけじゃあない。少しでもリスクのある方には、それなりの金利を払ってもらわなければ、貸せるわけにはいかんですよ」
結局シェリーは、ブレイクの話を断った。
領地や屋敷を抵当に入れて、高い金利を条件に借金をするのはあまりに危険すぎるからだ。
シェリーは家に帰ると、居間の椅子に座り込み肩を落とした。もう、万策尽きた。
(どうしたらいいだろう。このままでは、ワイナリーの運営や春の作付けにも支障が出てきてしまう。使用人への支払いも怠るわけにはいかないし……)
シェリーは考えあぐねて、両手で頭を挟んだ。
(結局、領地を少し手放さなくてはならなくなる。そんな…… どうしよう)
そのとき、リリーが来客を知らせに部屋に入ってきた。
「シェリー様、ゴードンという方が今いらっしゃってます。お仕事のことで、シェリー様にお会いしたいそうです」
「ゴードン?」誰だろう。聞いたことがない。
「どんな人?」とシェリーが
「きちんとした紳士に見えます」
シェリーは少し考えてから言った。
「わかった。応接室にお通しして、お茶の用意もね」
ゴードンは皺ひとつない白いシャツに、黒い上等の上着を着た身なりの整った紳士だった。口ひげをなでながら、優雅な足取りで応接室に入ってきた。
「あなたがシェリー・アシュビーさんですね」
シェリーは見知らぬ人に、多少緊張していた。
「はい。私がこの家の当主のシェリー・アシュビーです。ゴードンさん初めまして。どうぞおかけください」
二人はテーブルを挟んで座った。
「私はブライアン・ゴードンと申しまして、クレア・オルコット夫人の財務担当の代理人を務めています」
シェリーはなんのことかと思った。
「クレア・オルコット夫人とは、どういう方なんでしょう?」
「ご主人を亡くされて、現在、多くの資産を持っていらっしゃる貴婦人です」
シェリーは率直に訊いた。
「その方の代理人のゴードンさんが、私になんのご用件ですか?」
「実はですね。オルコット夫人が、アシュビー家のワイナリーで作られたワインを大変お気に召しましてね。ぜひ、今ある在庫分だけでも、すべて購入したいとおっしゃるんですよ」
シェリーは驚いた。
「本当ですか」
「そうですよ」
シェリーは天にものぼる気持ちになった。在庫はまだだいぶ残っている。しかし、これはあまりに話がうますぎる。シェリーは騙されたあとなので、用心深くなっていた。
「商店を通さず直接購入されるのでしたら、現金決済になりますが、宜しいでしょうか」
ゴードンは笑いながら口ひげをなでた。
「けっこうですよ。ガーランド商会には、ひどい目にあったそうですね」
やはり知っているのかと思って、シェリーは顔を赤くした。
「ええ、そうなんです。これからは、取引には細心の注意をはらうつもりです」
「わかりますよ。ですが、オルコット夫人については心配いりません。夫人は社交嫌いなので、表向きは知られていませんが、このロルティサでは有数の資産家です」
「まあ、知りませんでした」
そんな資産家夫人がいたとは初耳だった。
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