第4章 伯爵家の別邸 35

 レオナルドはカトリーナの姿を思い浮かべた。

 痩せて背が高く、顔が面長で頬骨が高いが、決して醜くはない。むしろ顔立ちは整っているといえるかもしれない。ただ、愛嬌を最初から拒絶しているかのようで、近寄りがたい雰囲気だった。レオナルドを見下しているようにも思えた。


 レオナルドはプライドの高いカトリーナの手を取り、その手に優しくキスをした。ぎこちないが、カトリーナは嬉しそうに頬を染めると、ほほ笑みを返した。

 この彼が夫になる人なのだ。

 カトリーナは美しいレオナルドに好意を持ち始めている。


 シェリーは思わず泣き出した。

 レオナルドは、シェリーの手を自分の両手で包み込んだ。


「泣かないでほしい。君への気持ちは変わらない」

「だって、あなたは結婚してしまう」


 シェリーは苦しそうに、しゃくりあげた。

「君とは別れるつもりはない……」


 シェリーは顔を上げ、レオナルドの険しい顔を見た。

「なにを言っているの……」

「結婚とは政略的なものだ。そう言っただろう」


 シェリーは目を大きく見開いた。

「この屋敷は、長く廃屋になっていたのを改装した。ここは、ジュリアンとイサドラの愛の住み家だった。私もそうするつもりだ」


「それって、愛人になれってこと…… ?」

 レオナルドの目がいっそう厳しくなった。

「そうだ。君はここで暮らすんだ」


 シェリーの胸の鼓動が早くなった。

「レオナルド、ばかなことを言わないで」

 シェリーは悲哀に満ちた声を上げた。


「私は真面目な話をしている。ここで君と暮らしたいんだ。そして、君に私の子を産んだもらいたい。シェリー、その子が男子なら次期カトラル伯爵になる」

 シェリーは首をふった。


「私はいや。そんな穢らわしいこと」

「シェリー、君はもう子供ではない。これからは現実的な選択をするべきだ。私は特別なことをするのではない。歴代のカトラル伯爵は皆そうしてきたのだ」


 レオナルドの顔には、少しずつ苛立いらだちと怒りが混在してきていた。

「私は伯爵として義務を尽くすつもりだ。今までの慣例にのっとって、するべきことをするまでだ。私のどこが悪い」


 シェリーはまっすぐな目を向けた。

「奥様は伯爵邸にいるのね」

「そうだ」

「あなたは、屋敷と別邸を行ったり来たりするというわけ」

「そうだ。歴代のカトラル伯爵は、そういう暮らしをしてきた」


 シェリーは、レオナルドの平然とした態度にあきれた。

「そんなこと、まっぴら」

 レオナルドは怒りをあらわにした。


「このロルティサを支配しているのは、我がカトラル家だ。君は逆らえると思うのか。アシュビー家の今後を思えば、私に従う以外に道はない」


 シェリーはレオナルドの豹変に驚いた。今までの甘い言葉はなんだったのか。これが彼の本性か。

「脅すつもり」

 レオナルドは多少躊躇すると、表情をゆるめ、声を優しくした。









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