第4章 伯爵家の別邸 31

「シェリー様、よくぞご無事で」

 リリーは泣きながら、シェリーに抱きついた。


「ごめんなさい。心配かかけて」

 シェリーはようやく緊張がとけて、どっと涙があふれた。

「おばあさまは?寝ているの?」シェリーは、エリザベスが出て来ないことを不思議に思った。


 リリーが顔を暗くさせて言った。

「奥様は、シェリー様が拘束されたことを聞き心配のあまり、今朝がたお倒れになりました」

「まさかそんな……」

 シェリーはすぐに、エリザベスの寝室へと行った。


 リリーが燭台で部屋を灯すと、死人のようにベッドに横たわるエリザベスがいた。

「おばあさま……」シェリーが優しく話しかけた。


 エリザベスはうっすらと目を開けると、シェリーを見つめた。

「おばあさま、もう大丈夫よ。私は帰ってきたの。カトラル伯爵は生きていて、私を助けてくれた」


 エリザベスは、口を開けなにかをしゃべろうとするが、声は出なかった。

 エリザベスの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「ああ…… 神よ」

 シェリーはエリザベスの冷たい手を握りながら、思わず、泣きじゃくった。


 エリザベスは、シェリーがベアード卿に囚われたという事実から、ショックで倒れ、体を動かすことができなくなっていた。


 シェリーは部屋を出ると、今後の事を思い、どうしたらいいのかわからなくなった。とにかくカトラル伯爵は、生きて帰ってきてくれたが、エリザベスが倒れた以上、これからはシェリーがアシュビー家を背負っていかなくてはならない。


「シェリー様、今日はお休みください」リリーが気づかって言った。

「ありがとう……」


 シェリーは疲れきっていて、ベッドに入り休みたかった。あまりに、いろいろの事が一度に起こりすぎている。

 シェリーは重たい体を引きずりながら、二階の自室へと階段をのぼって行った。


 これからのことは、明日以降に考えることにしようと思いながら……



 次の朝、シェリーは朝食を作って、エリザベスの部屋を訪れた。すでにリリーがエリザベスの世話をしていた。

 窓から、澄んだ朝陽とほんのりとやわらかい風が入っていた。


「奥様は、やはりシェリー様のお顔をご覧になってからは、気分が良くなったよううです」とリリーがにこやかな顔をしていった。


エリザベスはベッドで上体を起こして、かすかに微笑んでいた。昨日より、顔に赤みが出てきている。シェリーは幾分ほっとした。


 時間をかけてエリザベスに朝食を食べさせたあと、シェリーは事務室に入って行った。

 狭い部屋には、領地に関する帳簿や、報告書が並んだ本棚と、机と椅子があるだけだ。ここで、エリザベスは普段仕事をしていた。



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