第4章 伯爵家の別邸 32

 シェリーは帳簿をざっと目をとおしたが、よくわからなかった。今までに、見たことがなかったからだ。

 シェリーはため息をつくと、机の上でひじをついた。今のおばあさまには訊くことさえできない。どうしたらいいだろう。


「シェリー様」

 エディ・ベケットが事務室の入り口の前に立っていた。

「エディ」シェリーが座りながらエディを見た。


「事務処理は手伝わせてください」

「エディにわかるの?」

「はい、ときどき、奥様のお手伝いをしていました。内容はわかっています」


 エディは照れくさそうに、白髪の頭に手をやった。エディは若いときから、アシュビー家に仕えていた人だった。

 シェリーは目がしらが熱くなった。


「本当に助かるわ。私、今まで勉強してこなかったから。お願いするわエディ」

「お任せください」

 エディは顔いっぱいに笑顔を浮かべ、皺をいっそう深くさせた。


「これからはみんなに助けてもらいながら、なんとかやっていく」シェリーは決意を込めて言った。

 シェリーは自分の責任を痛感した。

 アシュビー家のために、家族や働いている人たちのために精一杯がんばろう。


「ところでシェリー様、戦争はもう終わったのですか?」エディが不安そうな表情になった。

「たぶんそうだと思う。カトラル伯爵が再びロルティサのあるじとして戻ってきたから、心配はないはずよ」


 昨日の出来事のあと、あわただしく帰ってきたので、カトラル伯爵から状況について聞くことはできなかった。

「いずれなにかしらの通達はあるはず」


 ロルティサではすぐに、カトラル伯爵が生きて戻り、ベアード卿とその一派を制圧したということが伝わった。さらに、すでにサイラス国王は解放され、反乱軍のエドガー王子が自害することにより、戦争の終結宣言が行われたという事実も人々の知ることとなった。


 シェリーも戦争が終わったことに安堵した。これで、普通の日常が戻ってくるのだ。


 数日後、カトラル伯爵から手紙と花束が届いた。


 シェリー・アシュビー嬢

 ようやく平和が取り戻され、私はロルティサに帰ってくることができた。これも神のご加護だと思っている。


 ただ、エリザベス・アシュビー夫人が病に倒れられたことを聞き、あなたの気持ちを思うと心が痛む。どうか力を落とさないでほしい。私もエリザベス・アシュビー夫人の回復を心より祈っている。


 この戦争は多くの傷跡を残したが、ロルティサには、希望に満ちた未来がまた開かれるのだ。皆とともに力を尽くしていきたい。


 愛しい人よ。その前に、あなたに話しておきたい大切な事がある。そのために、私の別邸にあなたを招待したい。


 追って、日にちはお知らせする。


 愛しい人よ。再びあなたに逢うことができる幸せを、神に感謝したい。

                           レオナルド・カトラル












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