第3章 王家の争い 30
「レオナルド……」ベアード卿は低くつぶやいた。
「シェリー逃げろ」カトラル伯爵が叫んだ。
伯爵とベアード卿は激しくもみあい、
「クリフ、おしまいにしろ。命だけは助けてやる」カトラル伯爵は、荒く肩を震わせながら言った。
ベアード卿はふらつきながら立ち上がると、無残な顔で苦しげに咳きこんだ。
瞬時、ベアード卿は身を
ベアード卿はナイフを持つ手を高く振り上げた。
「死ね」
そのとき、一発の銃声がとどろきわたった。
ベアード卿は激しく体を震わせ、手に持つナイフを落とした。するとそれは、カトラル伯爵の頭の先の地面に突き刺さった。やがて、ベアード卿は崩れるように、前のめりに倒れた。
ベアード卿の首が貫通していた。
「助かった……」カトラル伯爵は大きく吐息をした。
カトラル伯爵はベアード卿の体を重たそうに押しのけると、ゆっくりと立ち上がった。額の血をぬぐうと、銃弾の先を見た。
シェリーが銃を持ったまま、彫像のようにたたずんでいた。目は恐怖に見開かれている。
「シェリー、よくやった」カトラル伯爵は、シェリーの様子を見て、笑みを浮かべた。
シェリーはいざというときには、敢然と立ち向かう勇気を持つ人なのだと伯爵は思った。
「それは、君にあげた拳銃か?」
シェリーは鮮烈な体験のあと、気持ちが静まらず、顔が紅潮していた。
「ええ……」やっとかすれた声がもれた。
シェリーはカトラル伯爵から受け取った拳銃を、ガーターベルトに挟んでいた。
「思わぬところで役にたった」伯爵の目が光っていた。
シェリーは伯爵を茫然として見つめた。
兵士たちがベランダから、二人に駆け寄ってきた。
カトラル伯爵は兵士を護衛につけ、シェリーを自宅まで送り届けた。
時刻はもう真夜中だった。星も見えない漆黒の暗闇の中、なつかしい家の玄関の扉が開くと、リリーとエディが出てきた。
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