第3章 王家の争い 19
「私はサイラス国王陛下には恩義がある。陛下は私をカトラル伯爵として認めてくれた。その陛下をぜひ助け出したい」
カトラル伯爵には強い意志が感じられた。
「この国を平和に治めることができるのはサイラス国王だ。エドガー王子が国王になっても、国は乱れるだけだ」
「決意しているのね」シェリーの頬を涙がつたわった。
シェリーは初めて、カトラル伯爵が真実を吐露するの聞いた。皮肉っぽく笑う伯爵が、内心どういう感情を持っていたのか、ようやく理解できた。そんな伯爵は、シェリーの内面に変化を与え始めている。
それはシェリーにとって初めての想いだ。熱く彼女を焦がす炎だ。この瞬間に、シェリーの心に灯った。
「エドガーを許すことはできない。命を賭して戦う」カトラル伯爵の言葉は重く響いた。
「なんてこと……」シェリーは悲しげな声をあげた。
カトラル伯爵は、シェリーの手に優しくキスをした。
「君に逢っておきたかった」
「無事に帰ってくるわよね」シェリーは哀願するように言った。
「そのつもりだ。でも戦いだから、どんなことが起こるか予想できない」
シェリーの胸はしめつけられ、苦しくなった。
「レオナルド、約束して帰ってくると」
シェリーは初めて彼の名を呼んだ。
伯爵はシェリーの目を見つめると、あふれる感情に堪えきれなくなり、彼女を抱きしめた。
シェリーの震える唇に彼はキスをした。つかの間の切ないキス。
伯爵の手は、シェリーの髪をなで、背中から腰にそっていった。彼女は伯爵の手の熱さを感じていた。このまま時が止まってしまえばいいのに。
カトラル伯爵はシェリーを抱きしめながら言った。
「君は私を愛するようになると、言っただろ」
シェリーは涙の中で、無理に笑顔を見せた。
「そんなこと、まだわからないわ」
「君は強情な人だ」
カトラル伯爵はシェリーから、なごり惜しげに体を離した。
「もう、行かないと。外に兵士を待たせている」
シェリーはうなずくと、涙をふいた。
カトラル伯爵は軍服の内ポケットに手を入れると、小さな拳銃を取り出した。
「これを君に渡しておく」
彼は拳銃をシェリーの手にのせた。シェリーの手のひらにのるほどの小さな拳銃だった。
「なにかあったときは、これで身を守るようにしてほしい」
シェリーは拳銃を握りしめた。
「わかったわ」
カトラル伯爵は感情を押し殺すと、これまでの不安をぬぐい去ったように、不適な笑いをふと浮かべた。伯爵の目が、いっそう大胆な野性味をおびて輝いた。
伯爵は指でシェリーの唇に触れた。
「これで出かけることができる。明日立つつもりだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます