第3章 王家の争い 17

「私は怪しい者ではありません」シェリーの顔は恐怖で色を失った。

 若い兵士は、疑い深い鋭い目をシェリーに向けた。


「今頃、一人でこんなところにいるとは、なにか理由があるのだろう」

「いいえ、そんなこと」

「こっちへ来い。取り調べをする」

「私はアシュビー家の娘です」シェリーは必死に叫んだ。


「それが本当かは、これから調べる」兵士はさらに強く詰めよった。

そのときだった。


「その娘は、シェリー・アシュビー嬢だ」

 突然、その場の緊張を破るように、背後で声が聞こえた。

 シェリーは振り向いた。


 少し離れた背後に、青い軍服を着たカトラル伯爵が立っていた。

「アシュビー嬢に間違いない」と伯爵が言った。

 兵士は背筋を伸ばすと、慌てて敬礼をした。


「自分の守備に戻るように」と伯爵が言うと、兵士はすぐにその場を離れた。

「いったい、これはどういうこと」とシェリーが言った。


 カトラル伯爵はシェリーに近づいた。

「非常事態だ。厳戒態勢をひいた」

 伯爵の顔は真剣だった。こんな厳しい表情を見せることもあるのかとシェリーは思った。今までとは別人のようだ。


「まさか…… 戦争になるの?」

「そうなるかもしれない」カトラル伯爵の顔には疲労が浮かんでいた。


「それにしても君には驚くよ。なぜ、家を離れた? 国王が幽閉されたことは知らせたはずだ」

「どんな様子になっているのか確かめたかったの」

 カトラル伯爵はようやく笑みを浮かべた。


「やんちゃな人だ」

「ロルティサが心配なの」

「君のような若い娘が出る幕じゃない」


 その言葉にシェリーは憤慨した。いつも伯爵は彼女を子供扱いにする。これでも一人前のレデイだ。


「ロルティサを愛しているの」

「それはわかるが、現況はひどくなる一方だ」

「どうなるの?」

「次期国王の座をめぐり、この争いは内戦に発展しつつある」


「ひょっとして、ロルティサまで戦場になってしまうの?」

「そうはならないようにする。だが、兵を出さなくてはならない。私は出兵するつもりだ」


「戦争に行くの?」シェリーは怯えた顔を見せた。

「国王陛下の城がエドガー軍に占拠されている。それをなんとかしなくてはならない」


「そんな危険なことを……」伯爵が、その占拠をとくために出兵するのか。

 カトラル伯爵はシェリーの不安な顔を見つめながら言った。

「私のことが心配なんだね」


 シェリーは顔を赤らめると、顔を伏せた。

「君は素直じゃない」

「ロルティサが心配なだけ」シェリーは気まずい表情を見せまいと、なおさら顔を背けた。


「まあ、いいさ。とにかく、これで帰りたまえ。君の護衛はつけてあげるから。これは私の命令だからね」

「わかった」

 シェリーは伯爵に従わなければならないことを感じた。


 伯爵は一人の兵士を護衛として、シェリーを家まで送り届けさせた。
















































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