第3章 王家の争い 16

 ドラモンド王家には二人の男子がいた。長男のサイラスと次男のエドガーは、微妙な関係だった。

 前国王はサイラスの母が亡くなったあと、若くて美しい妃ベリンダを迎えた。その間にできたのがエドガーだった。魅惑的なベリンダに溺れた前国王は彼女の意のままに次男のエドガーを溺愛し、長男のサイラスを退け、エドガーを国王にすえることを考えた。


 だが、堅実で信頼のおけるサイラスに、家臣団は絶対的な忠誠心をよせていた。そのため、前国王は多くの家臣団の意向を無視することはできず、しぶしぶサイラスを国王とした。表面上はおさまったかに見えたが、内心承服できないベリンダ妃は、サイラス国王に恨みを持ち続けた。このことが、その後もくすぶり続け、前国王の死をきっかけにサイラス国王とエドガーが争うことになったのだ。


 今回、国王のサイラスが幽閉されたということは、権力闘争の果てによるものだろうと推察された。


 国王の幽閉を知らされた翌日、シェリーはロルティサの街に様子を見に行きたくなった。エリザベスは、どんなふうになっているのかわからないのに、行くべきではないと止めた。


「おばあさま、ロルティサが危機的状況にあるというのなら、それを確かめてみたいの」

「あなたが行っても、どうなるわけでもないのよ」エリザベスはシェリーの無謀な考えに、怪訝けげんな顔を向けた。


 だが、シェリーは勇敢にもエリザベスを振り切った。ロルティサの街の現在の状況を見てみたかった。こういうときに、シェリーの好奇心がうずくのだ。


 その朝、黒いマントを着たシェリーは一人馬に乗り、ロルティサの街をめざした。

 

 街に着くと、早朝の霧に包まれ、ロルティサの街は重く沈んでいた。

 いつも買い物をする店は、すべてのショウウインドウが閉められ、人の影など見当たらない。一匹の野良猫だけが店の横の通路から、いぶかしげにシェリーを伺っている。


 シェリーは、店の前の馬を繋ぐ木に馬をとめると歩き出した。日常とは違う、異様な緊張感が漂っている。人はいるはずだろうに、街全体が息をこらしているかのようだ。


 商店街にそった石畳を歩いて行くと、やがて広場にたどり着いた。シェリーは思わず足を止めた。


 そこには数十人の青い軍服を着た兵士たちが、広場の水の止まった噴水の前に、まばらに立っていた。シェリーはその尋常ならざる光景に、動揺した。

 この兵士たちはなんなのだろう。


 すると一人の兵士がシェリーに気がつき、銃口を向けながら足早に近づいてきた。


「お前はなに者だ」兵士が厳しく声を上げた。

 突然のことに、シェリーは体が硬直した。


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