第2章 カトラル伯爵 15

  朝食を終え、シェリーは階段をのぼりながら、これでおばあさまの追求を一応かわすことができたと思った。

 カトラル伯爵の悪口を言って、いささか気が晴れた。伯爵は、シェリーを淑女としてまともに接したとは言い難い。どことなく皮肉っぽい上に、彼女を値踏みするかのように、頭からつま先まで観察していた。失礼なことに、まるでドレスの下のシェリーさせ、見えているかのような顔をしていた。カトラル伯爵は育ちのいい紳士とは到底思えない。


 良くない男だとはわかっている。

 だた、もしも伯爵とのことがこれで終わってしまうことになったら……

 妙に胸が泡立つのは、なぜ?


 カトラル伯爵から、それ以来、なんの連絡もなかった。

 やはり、一時の気まぐれだったのかと、シェリーは思った。彼にきられたら、それまでのことだ。


 シェリーは平静を装っていても、どこか心に隙間を感じてしまう自分が面はゆかった。


「シェリー、今度アクロイド家で昼食会が催されるそうよ。行ってみたらどう?」とエリザベスが言った。

「あまり気がのらない」とシェリーが心あらずの返事をした。

 この頃、シェリーはあまり元気がないとエリザベスは思った。


「このあたりの名家の青年たちが、きっと来るだろうから、いい出会いがあるかもしれないじゃない」

「そうかしら」

 シェリーにはそれが魅力的には響かない。


「シェリー、そろそろ縁談を考えなくてはね」

 こうなれば、早くシェリーに良い相手を見つけてほしいと、エリザベスは思った。

「今はそんなこと……」

 いやよと言いたかったが、シェリーは言葉を飲み込んだ。その理由を問われたくないからだ。


 シェリーは読みかけの本に目を移した。気持ちが乱れ、文字を目で追うだけで、なにも頭に入らない。


 夕闇が訪れようとした時刻だった。

 突然、慌ただしく、侍女のリリーが居間に入ってきた。


「どうしたの?」

 リリーのただならぬ様子を見て、エリザベスが言った。

 リリーの顔は青ざめ、額に汗が流れている。

「奥様、今、使者が来て…… 国王陛下が幽閉されたそうです」


「なんですって?」

 シェリーとエリザベスは驚きのあまり、二人で声を合わせて叫んだ。


 詳しい事情ははっきりしなかった。

 ドラモンド王家の内部の権力闘争が火種となり、国王の幽閉となったようだ。


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