第2章 カトラル伯爵 11

  再び、レオナルド・カトラル伯爵から手紙が届いたのは、それから数週間後だ。


  シェリー・アシュビー嬢

 あなたを夕食会へ招待したいと思います。

 先日の馬の遠乗りはとても楽しく、アシュビー嬢の手綱さばきには感心しました。

 ぜひ私の夕食会においで頂き、またあなたと有意義な時間をすごしたい。

                          レオナルド・カトラル


 手紙と一緒に、豪華な織の入った深紅のシルクのドレスが届けられた。

「伯爵はどういうつもりなのかしら?」とエリザベスが言った。この手紙は、まるで恋人にあてたような内容だ。


 シェリーは深紅のドレスを手にしながら、伯爵の気持ちがつかめないでいた。それでも、内心くやしいけれど、伯爵の手紙に胸がときめいてしまう。おばあさまには知られたくない心の秘密。喜びにゆれている。

「私にもわからないわ」


「伯爵はシェリーのことを気に入っているのね」エリザベスが渋い顔をした。

「まさか違うわ。カトラル伯爵はいけない男よ。彼の言葉を真に受けたら、とんでもないことになる」

 シェリーはいくぶん頬を染めて言った。だが、事実そうだ。伯爵は信用できない。


「それをわかっているのならいいけれど」

 エリザベスは不安を感じた。カトラル伯爵に近づくのはあまり好ましくないことだ。かといって、伯爵の機嫌を損ねることもできない。


「病気と言って、この誘いを断りましょう」エリザベスが重たい口調で言った。

「だめよ。おばあさま、そんなことできない。伯爵には嘘は通じないわ。彼、けっこう恐い人よ」シェリーは思わず叫んだ。


 エリザベスは、そのシェリーの必死の様子を見て言った。

「それでは致し方ないわね」

 エリザベスは、あまり愉快でない顔をしていた。


 夕食会の当日、カトラル伯爵から贈られたドレスを着てみると、その大胆さにシェリーは驚かされた。肩から胸にかけて大きくいている。深紅の色はシェリーの白い肌を際立たせる。彼女自身では、このドレスはとても選べないと思った。


(やはりカトラル伯爵の趣味だわ)

 シェリーはドレスに合わせて、髪を大きく結い上げた。


「このドレスすごいわね」エリザベスも驚嘆した。

 深紅のドレスを着ると、シェリーはとても17歳には見えない。りっぱな大人の女性だ。


 やがて樋爪ひずめの音がした。

「シェリー、カトラル伯爵家からのお迎えが来たようよ」エリザベスが覚めた顔で言った。


 シェリーは夜風を避けるために薄いショールをはおり、馬車に乗り込んだ。

 彼女は顔がほてってきていた。胸の奥では、恥ずかしいほど熱い胸騒ぎがしている。



 

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