第1章 仮面舞踏会 3

 屋敷の中に入ると、シェリーは一瞬、目がくらみそうになった。飾られた花の甘い香りと、燭台の色とりどりの灯りがシェリーを包み込んだ。


 目の前の大広間の扉は開かれていて、シェリーが立っているエントランスから、人々がすでに集まっているのが見えた。熱気があふれた大広間には、オーケストラの音色が人々のざわめきとともにあふれている。


 シェリーは最後の招待客だったようだ。カトラル伯爵は、馬車が屋敷内で混雑しないようにと、計画的に手配していた。

 シェリーは多少気後れしたが、勇気を出して大広間へと入って行った。


 大広間には、仮面をつけた人々が数百人いた。ロルティサの名家の人々なのだから、シェリーが知っている人物もいるはずだが、仮面の下の顔はわからなかった。


 皆それを楽しむように、盛んにおしゃべりをしている。シェリーがやって来たことなど、誰も気にかけていなかった。

 舞踏会はまだ始まっていないが、大広間の二階席にはオーケストラがセレナーデを奏でている。シェリーは入口のあたりにたたずみ、その様子をめずらしげに見ていた。


 シェリーの様子は誰が見ても、初めての来訪者であることがわかっただろう。


(これが仮面舞踏会なのか。華やかだけれど、どこか奇妙だ)とシェリーは思った。


 人々は趣向をらし、様々な仮面をつけている。シェリーのように銀色の仮面をつけている人もいるし、金色、赤、黒と色とりどりだ。なかには、派手な羽を仮面につけている人もいる。服装も素晴らしかった。


 男性は正装としての燕尾服を着ているが、女性のドレスはどれもデザインがっていて美しい。身に着けた絹、刺繍、レース、飾られた花々に負けない豪華さだった。


 やがて、小柄で額がやや禿げ上がった一人の人物が、大広間の真ん中に立った。


「ロルティサの紳士淑女の皆様、今日はようこそおいでくださいました。私はカトラル伯爵の執事エイマーズです。最初のご挨拶はカトラル伯爵ご自身ですべきところですが、本日は趣向として、カトラル伯爵は最後にお言葉を述べることになりました。今日は存分にお楽しみください」と言うと執事は一礼をした。


 人々は大きな歓声を上げた。

「最後にカトラル伯爵が現れる」

「初めてお会いすることになる」


 シェリーは、多くの人がカトラル伯爵を見たことがないという事実を知った。それにしても、こんな登場の仕方をするなんて、新しいカトラル伯爵は噂どおりの変わり者なのかもしれない。





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