第2話 残念な子供
さて、前世の記憶を取り戻した僕だったが、今の立場が残念なものである事も思い出した。
使える魔法は味属性というとてもレアなものなのだが、調味料を出すことしか出来ないのだ。
3歳で魔法の属性が判明したが、塩を魔法で作り出すことしか出来ずに、両親ががっかりしたという事があったのだ。
貴族だけが魔法を使える世界なので、戦争ともなれば貴族は貴重な戦力なのだが、それは攻撃魔法のある属性であればこそだ。
二人の兄はそれぞれ水と火の属性を持っており、ファイヤーボールやウォーターボールという攻撃魔法が使える。
父も火の属性を持っており、強力な魔法を使って魔物や敵兵を蹴散らしてきた。
そんな家計に味属性なんていう平和な時にしか役に立ちそうにない属性では、調味料を出すだけの僕が両親を失望させるには十分な理由だった。
しかも、魔力がすぐに枯渇してしまうので、精々食事のときに味付けを濃くする程度にしか塩を出せなかったのだ。
それでも勘当される事がなかったのは、アイテムボックス持ちだったからである。
アイテムボックスも魔法の一種で、誰でもが使えるわけではない。
戦争になったときに、物資の運搬に役立つだろうと言うことで、ローエンシュタイン家にいられる事になったのだ。
「せめて、大量に塩を作り出すことができれば、もう少し価値があったのだがな」
と実の父から言われたマクシミリアン少年は、毎日魔力が枯渇するまで塩を作り出す練習をしていたのだった。
その甲斐あってか、今ではかなりの塩を作り出すことが出来る。
しかも10年間ほぼ毎日作ってきた塩は、アイテムボックスに大量に格納されていた。
それと、味属性魔法は味を濃くするだけでなく、薄くすることも出来るのだ。
つまり、塩分濃度を下げることができる。
これは実はすごいことで、水に溶けた塩分ですら水から分離させて消去することが出来るのだ。
塩をかけすぎた時くらいしか役立たないけど。
「この魔法があれば、家から追い出されたとしても、塩の商人になって生活できるかな」
と考えたら少し楽になった。
「マクシミリアン坊ちゃまなら、もっと違う生き方もできるでしょうけどな」
目の前にいる男、ゲルハルトがそう言ってくれる。
ゲルハルトは僕専用の使用人で、熱を出して意識を失っている間、ずっと付き添って看病してくれていたらしい。
この家の中での数少ない味方だ。
魔法の属性が判明したあとも、それまでと変わらずに接してくれている。
ま、判明前は幼すぎておぼろげな記憶しかないけど。
貴族の子供は14歳になる年に王都にある魔法学園に入学して、そこで2年間魔法を詳しく勉強することになっている。
貴族は魔法を使って国を守るべき存在なので、これは義務となっているのだが、世の中何事にも例外はある。
例えば魔法が使えない子供が生まれる事もあるし、何らかの理由で廃嫡となったりした場合だ。
僕の場合は廃嫡される可能性が高いかな。
なにせメンツを重んじる貴族なのに、辺境伯という地位にありながら子供が塩しか出せないなどと知れ渡れば、メンツが丸つぶれとなってしまう。
それを避けるために廃嫡してしまうというのはあり得る。
暗殺される可能性もあるけど、そうするのであればもっと小さいときにしているだろう。
アイテムボックス持ちという価値だけで生かされているのだ。
ただ、塩しか出せないというのは本人と家族の誤解なんだけど。
使える魔法は調味料を作り出す魔法なので、調味料なら知っているものはなんでも作り出せる。
ただ、マクシミリアンが幼すぎて塩以外の調味料を知らなかったのだ。
それでも残念な事には変わりないけど。
どうせなら追い出される前に自分から家を出て、自由気ままに暮らそうと決めた。
成人たらすぐに家を出よう。
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