初めての仕手戦
第3話 ヨーナス商会
熱も下がったので、意識を取り戻した翌日には街に出かける。
どうせ跡継ぎとしては期待されていないので、貴族としての勉強なんてしなくても許されるのだ。
というか、相手にされていないと言うのが正確な表現かな。
ローエンシュタイン辺境伯領の領都ともなればそれなりの規模を誇っており、金融街にもそれなりに賑わいがある。
そう、金融街があるのだ。
金融街の中央には金融商品取引所があり、様々なものの先物取引が行われている。
ただし、銀行や証券会社のような会社は全て商会が担っている。
なので、金融街には複数の商会の事務所が設置されているのだ。
それ以外にも商業地区には店があり、倉庫地区には倉庫を所有している。
なにせ、客からの先物取引の注文を取りつぐには金融商品取引所に近い場所に事務所がある方が便利だし、現引き、現渡しの処理をするのに大きな倉庫が必要になる。
そんな金融街の一角にあるヨーナス商会に僕は来ていた。
ヨーナス商会はローエンシュタイン家との取引があるので、子供の僕が来ても丁寧に扱ってくれる。
「いらっしゃいませ。マクシミリアン様」
入口で見知った従業員が挨拶をしてくれる。
「こんにちは。会頭はいる?」
「はい。本日はこちらにいらっしゃいます。呼んでまいりますので、応接室でお待ちください」
応接室に案内されて、ヨーナスが来るのを待つ間に黒コショウを魔法で作り出す。
それを持ってきた布の袋に入れた。
僕が家をいつ追い出されてもいいように、成人してから家を出て生活に困らないように、これをヨーナスに買ってもらえるかを聞きに来たのだ。
しばらくすると、太った中年男性が応接室にやってきた。
愛想よくニコニコと笑って挨拶をしてくる。
「ようこそ。言って下さればお屋敷まで馬車を向かわせたのですが」
「いや、今日来たのは父上たちには内緒なんだ。実はこれを買ってもらえるかどうか聞きたくてね。他言無用でお願い」
そう言ってから先ほど作った黒コショウを手渡す。
「黒コショウですか」
「うん」
この地域では様々な種類のコショウは生産できないし、出回っている量も少ないから高級品だ。
その辺は大航海時代みたいなイメージだな。
で、味属性の魔法が使えるので、コショウも魔法で作り出すことが出来る。
でも、どういう訳か金額に比例して調味料を作る魔力も必要とされる量が多くなるので、塩と比べたら胡椒はそんなに多くは作る事が出来ない。
「本物ですが、どこで入手されたものですか?失礼ですが辺境伯様に内緒となると、まさか家から持ち出したとか?」
「そんなことしないよ。ばれたらすぐに家を追い出されちゃうから。盗品じゃないのだけは間違いないから。ちょっとした伝手で木を入手して、栽培に成功したんだ。ただ、父上たちにばれたら取り上げられちゃうじゃない。どのみち三男の僕は家を出なければならないから、それまでにお金を作っておきたいんだよ」
「なるほど」
この食わせ者の商人が僕の言う事をどこまで信用してくれたのかはわからないが、買い取ってくれることになった。
金額は50万マルク。
この国の通貨単位はマルクだ。
紙幣は存在していないので、金貨銀貨銅貨などでやり取りされている。
10万マルク金貨4枚と、1万マルク銀貨を9枚、それと1000マルク銅貨を10枚で貰った。
金貨は街中で使うには不便だから、細かい貨幣にしてもらったのだ。
生活費は1日100マルクもあれば最低限の生活は出来る。
ただし、家賃は別だし、物価は常に変動しているので絶対ではない。
貴族の生活をしたいのであれば、それは1000万マルクにも跳ね上がる。
どこを目指すかだな。
正直黒コショウの値段としては安いのかもしれないが、はじめての取引だしこんなものだろう。
値崩れするのと出所をあやしまれるから、毎日持ってくるわけにはいかないが、ちょこちょこ持ってきて換金しよう。
「それじゃあまたくるね」
「お待ちしております」
ヨーナスに見送られて事務所から出ると、人目につかないところで貨幣をアイテムボックスに収納した。
そのうちヨーナス商会に注文を繋いでもらって、先物取引がやりたいなあと思いながら家に帰る。
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