転生個人投機家の異世界相場列伝
犬野純
転生
第1話 転生
巾着くくりという言葉を知っているだろうか。
これは最近では使われなくなったが、過去に行われた仕手戦という株や金融商品の売りと買いに別れた勝負で使われた手段のことである。
その内容というのは本尊と呼ばれる売り又は買いのグループのボスを誘拐して、証券会社などに注文を出せなくしてしまう手段の事である。
勿論犯罪なのだが、仕手戦ともなれば多額の金が動くので、四の五の言っていられないというのが実際のところだ。
仕手戦に失敗した本尊が殺害されて見つかったなんていうことも、何度もニュースになっているくらいだから、反対側のポジション持っている奴を殺すなんていうのは当然起きる。。
そういう訳なので、本尊は身を隠すのが常であるのだが、ネット社会になってからは身を晒さずにグループと連絡を取るのも容易になり、そんな危険も無くなったと思っていたのである。
ただ、オフ会などは頻繁に行われており、そこに参加する大物個人投資家は結構いる。
ネット証券が個人の間に広がった当時から、ミ〇シィや〇ちゃんねるなどで交流のあった投資家がオフ会を開いていたのだ。
そこのころは、まだ仕手筋が会合を開いたなんていう話も飛び交ったりしたもんだ。
今となっては殆ど聞かないけど。
なんでこんな話をしているかというと、僕はそのオフ会で刺されて死んだのだ。
そう、間違いなく死んだはずだ。
仮想通貨クラスタのオフ会で、ショートで破産したやつが刃物を振り回して暴れた。
仮想通貨は人類史上最大のバブルと言われたチューリップ相場を超えたバブルで、金融市場の歴史を塗り替えたのだ。
そんなものをショート、つまり下げる方に賭けていれば破産するのも当然だろう。
しかも、レバレッジ取引で証拠金の400倍のポジションを持てたりもするのだ。
ハンドルネームは知っている程度だったのだが、破産したやつがよくオフ会に来れたもんだなと思っていたら、何故かそいつは僕を目掛けて走って来たのだ。
「お前のせいでー@#$%*&¥」
と意味不明な言葉を叫んでいるのを見て、対面証券にも大損してこうなった奴が押し掛けていたなと思ったところでお腹が熱くなった。
刺されたんだなと認識したところで記憶が途切れたのである。
次に意識が戻った時は自分の体が子供になっていた。
見ず知らずの人たちばかりで、今いるところがオフ会の会場でもなければ、日本でもない事に焦った。
外国人風の顔立ちの初老の男性が僕の顔を覗き込んでいた。
「死後の世界は本当にあった!」
と叫んだところで
「坊ちゃまはまだ死んではおりません」
と、その男性に否定された。
おぼろげながらなんとか記憶の糸を手繰り寄せると、どうやら自分はローエンシュタイン辺境伯とかいう貴族の家の三男として生まれたらしい。
名前はマクシミリアン・フォン・ローエンシュタイン。
金髪碧眼の半ズボンが似合う可愛い13歳の男の子だ。
この世界には魔法が存在しているが、それは貴族しか使う事が出来ない。
地水火風光闇などという属性があって、どれか一系統だけが使えるようになるのだ。
僕の属性についてはまた後ほど。
フォンと名乗っているが、爵位を持っているとかいう訳ではない。
この国では魔法が使えるとわかるとフォンを名乗る風習があるのだ。
どうも3日前に高熱を出して気を失ったらしく、医者も匙を投げたのだけど、奇跡的に死ななかったのが今ということらしい。
ただ、本来のマクシミリアンの意識がどこにも感じられないので、死んだマクシミリアンの体に僕の魂が入り込んだのかもしれない。
少なくとも、自分がマクシミリアンと同じ魂ではないと直感的に感じていた。
それでもそのうちまたマクシミリアンに意識を支配されるかもしれないし、本当のところはどうなのかわからない。
なので、それはそれとして心のなかで整理をつけ、マクシミリアンの記憶を更に辿ってみる。
そんな中で見つけて何より嬉しかったのが、この国――フィエルテ王国という王国だった――では金融商品の取引が発達していることだ。
小麦や芋にトウモロコシなどの先物取引が存在している。
鉱山から産出される金銀銅なども、先物取引が存在しており、我が家が国に収めるのは現物ではなく現金となっているのだ。
仮想通貨という人類史上最高のバブルの行く末を見ることが出来なかったのは残念だけど、転生したこの世界でまた相場を張っていこうと心に決めた。
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