第12話 新たな領域へ2

「神様に近づく?」

 アルスはその単語に疑問を示した。

 神様に近づくなんてのは、

 アルスとしても大平勇としても考えたことがなかったからだ。


「俺達は人間ですよ。神様って、無理に決まってるじゃないですか」

「私が直々に加護を授けたあなたなら出来るでしょう。

 あなたのチートスキルは進化出来るのですから」

「いや。俺、まともにチートスキルすら使いこなせていないんですよ。

なのにいきなり進化させるって」

「ここより遥か北にあるハルゲンラストという北方の地に、

 神に一番近づいた人間がいます。彼に頼り、修行を積んでください」

「どういうことですか?」

「端的に言えば世界で一番強い人間です」

「強い人間?」

 アルスはその人のことが非常に気になりセレーナに詳細を聞こうとしたが、

 彼女はそれを無視してナナに話を振る。

「それともう一つプレゼントをあげましょう。ナナさん、額を私に向けてください」

「えっ? 僕にですか?」

「はい」

 セレーナはまたもや何かを唱えていた。

 色々な呪文を見てきているが、アルスは見慣れないでいた。

 呪文を唱え終わったが、これといった変化は見えない。

 アルスは戸惑いながらナナの方を見る。

「なんかあったか?」

 ナナもアルスに言われたが答えられない様子だ。

「その。どういう風になったのでしょうか」

「これであなたも成長出来るようになりました」

「成長出来るように? 本当ですか?」

 ナナは感激している様子だった。


「勇者アルスだけでは今後の戦いはきつくなるでしょう。

 だから裏切らないであろう、味方のあなたを信頼して成長の権限を与えました。

 この信頼に報いてくださいね」


 セレーナは慈母のような笑みをナナに向けた。

「ありがとうございます、セレーナ様」

 ナナは修道院で育ってきたこともあり元から敬虔な信徒であったが、

 セレーナに与えられた奇跡を目撃したことにより心の底から敬服したのだろう。        彼女は跪いて、祈りを捧げていた。

「流石敬虔なる信徒ですね。エロ本を不法投棄した罰当たり者ににスキルを与えて、            更に成長させてあげたのに一切感謝しない人がいるのに立派なものです」

「あの。俺にチクチク刺さるんで勘弁してもらってもいいですか。セレーナ様」

「ええ? 私はアルスさんでもなければ大平さんのことを

 批判しているつもりはないんですよ」

「いや。露骨に俺を意識しているでしょうよ」

「そう思うなら言うべき言葉があるのでは?」

 セレーナはアルスの言葉を期待して、悪戯な笑みを浮かべる。


「うっ。セレーナ様。ありがとうございました」

「よろしい。さて、無神論者のアルス君の感謝が聞けた所で私は帰ります。

 では、これで失礼」

 と言ってセレーナは消えていった。

「嵐のような人だったな。あの人」


 アルスはセレーナの奔放ぶりに辟易としていた。

「あのさ、アルス。エロ本を捨てに来てたってどういうこと?」

「うん? そんなこと言ってたっけか?」

「うん」

「いや。それはな……聞かないことがいいこともある」

 アルスは逃げるように言うが、ナナはそれを見逃さない。

「今日は、そのことを話すまで逃がさないぞ」

 二人で何時間かすったもんだしていたら眠りに就いたのであった。

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