第68話
「マミちゃんは全部が中途半端なままいってしまったみたい」
梓は玲子と厚彦の2人に今追体験したものを伝えた。
「そっか」
厚彦は真剣な表情で頷く。
すべてを同時に解決することは難しい。
けれど、マミちゃんの中で一番くすぶっている気持ちはやはりレントにあると思う。
その気持ちだけでもスッキリさせてあげたかった。
「明日、レントとユウコに話をしよう」
玲子は真剣な表情でそう言ったのだった。
☆☆☆
翌日はとてもいい天気だった。
しかし、廊下を歩いている時に覗いたB組は昨日よりもさらに淀んだ空気になっている。
心なしか生徒の人数も少ない気がする。
気になった梓がB組の友人に話を聞くと「昨日、マミちゃんの葬儀から帰ってきて急に体調が悪くなった子が増えたの。葬儀場で風邪でもうつったんじゃないかな?」と、言っていた。
「そっか。マミちゃんの体はもうないんだ」
梓は呟く。
それでもマミちゃんの魂はまだここに残っていた。
それも、強烈なマイナスの空気を放ちながら。
もしかしたらB組の欠席者が多いことも、これと関係しているのかもしれない。
しかし、それは口には出さなかった。
昼休憩になって梓と玲子と、それに厚彦の3人はレントとユウコを探した。
とても天気がいいこともあり、2人は中庭のベンチに座ってお弁当を食べているところだった。
「2人とも、ちょっといいかな?」
声をかけてきた梓にレントが「あ、新聞部だ」と言って笑った。
隣りのユウコは「新聞部?」と眉を寄せている。
「実は2人に話を聞いてほしくて探してたの」
玲子の言葉に「話すことなんてなにもない」とユウコは突っぱねて立ち上がる。
レントもそれに合わせて立ち上がった。
「ユウコはマミちゃんのこと、本当は好きなんだよね」
呼びとめる代わりに梓は言った。
ユウコは梓を睨みつける。
「何言ってんの?」
「みんなが暴走してから、止められなくなったんだよね?」
昨日見た記憶の限りではそう見えた。
ユウコは決してマミちゃんを嫌ってはいなかった。
ただ、2人の間で納得できないことがあり、つい意地悪なことをしてしまった。
それはあっという間に他の生徒に飛び火して、ユウコが助けることもできなくなった。
「それにレントも、本当はマミちゃんのことを気にしてた」
レントがハッとしたように息を飲んだ。
ユウコがレントをマジマジと見つめる。
「な、何言ってんだよ」
ユウコの手前だからか、レントは慌てて否定する。
でも、嫌いな相手と一緒に移動教室へ行くだろうかと考えたのだ。
少なくとも、レントはマミちゃんのことを嫌ってはいなかったはずだ。
何度声をかけられても、そのつどレントはしっかりと受け答えをしていた。
「なにを証拠にそんなことを言ってるの?」
ユウコの強い口調。
「幽霊が見えるって言ったら、信じてくれる?」
梓が言うと、2人とも目を見かわせた。
そして「バカにするのもいい加減にしろよ」と、レントの語気が強まった。
簡単に信じてくれるなんて思っていない。
玲子だって、最初は梓の言葉を疑ったのだから。
だから梓は最初から準備していたのだ。
「何週間か前に亡くなった厚彦のことを知ってる?」
「あぁ、A組の生徒だろ?」
レントが戸惑いながらも頷く。
「そうだよ。今、ここにいる」
梓の言葉を合図にして、厚彦がベンチに置いてあったペットボトルのお茶を持ち上げた。
フラリと空中に浮いたペットボトルにユウコが悲鳴を上げて飛びのいた。
「な、なんの冗談だよ!」
「冗談じゃないよ。厚彦が持ち上げてるの。厚彦、レントの腕を掴んでみて」
「まかせろ」
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