第67話
「本当に好きなら、言い返せたよね?」
「……そうだね」
頷くしかなかった。
ユウコの言うとおりだ。
あの時一瞬でも、マミちゃんは言葉を失っていたのだ。
その時になにか言えていれば状況は変わったかもしれない。
「もういいよ」
ユウコが吐き捨てるように言って鞄を乱暴に掴む。
そのまま教室を出て行くのだと思っていたけれど、途中で立ち止まり、目を見開いた。
視線を向けると、そこにはレントが立っていたのだ。
レントは険しい表情で2人を見つめる。
「なにしてんだよ」
そして低い声で言った。
ユウコは視線をそらし、マミちゃんはおどおどと視線をめぐらせた。
「くだらない話してないで、帰れよ」
レントの言葉によって、結局誰もスッキリしないまま、帰宅することになってしまったのだった。
☆☆☆
マミちゃんが緊急入院したのはその日の夜だった。
お風呂上りに急に発作が起きて病院へ運ばれて、そのまま入院することになってしまった。
一瞬頭によぎったのは机の中に置きっぱなしにしてしまったノートや教科書だ。
イジメの証拠が残っているあれを誰かに見られるかもしれないと思うと、たまらなく嫌だった。
恥ずかしい、かくしておきたい。
そんな気持ちが迫ってきた。
そこでマミちゃんは「また学校で勉強したいから、学校に置いたままにしておいて」と、両親に懇願したのだ。
本当なら体調のいい日には病室で勉強するのだけれど、それは参考書ですませることにした。
そんな中、1度だけレントがお見舞いに来てくれた。
「ユウコと付き合うことになった」
レントからの報告はただそれだけだった。
入院前からイジメられていたマミちゃんだから、他の生徒がお見舞いにくることもない。
「そっか……」
マミちゃんはそう言い、ほほ笑んだ。
頬の筋肉がひきつっていたから、ちゃんと笑えていたかどうかわからなかった。
レントへの気持ちを完全に捨てたわけじゃない。
今でも好きだ。
ユウコとの関係も修復したい。
だけど、今のマミちゃんは病院を出ることもできない。
イジメのこともそうだ。
自分はなにも解決していない。
ただすべてが宙に浮いてしまった。
そして数ヶ月後、そんな気持ちを抱えたまま、マミちゃんはこの世を去った。
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