第66話
「どうした?」
「あたしも一緒に行く」
ユウコはそう言うと、マミちゃんを人睨みしてレントの右側を歩きだした。
マミちゃんは少し遅れて、レントの左側を歩く。
初めての恋だけど、ライバルの存在はなんとなく理解できた。
ユウコはレントのことが好きなんだ。
それに、レントもたぶんユウコのことが……。
そう思うと、マミちゃんの胸はチクリと痛んだ。
初めての恋に初めての失恋。
自分は身を引いた方がいいのだと、マミちゃんはよく理解していた。
それでも簡単にそうはできないまま、一ヶ月が過ぎていた。
☆☆☆
「邪魔しないでくれる?」
放課後、ユウコに教室に残っているように言われたマミちゃんが、ユウコに言われたひとことだった。
「邪魔……?」
聞き返したが、そこまで鈍感なわけじゃない。
レントのことを言っているのだとわかっていた。
「あたし、レントのことが好きだから」
勝ちが見えているせいか、ユウコは強気だった。
マミちゃんはジッとユウコを見つめた。
ユウコは可愛くてみんなの人気者で、自分みたいに体も弱くない。
それに、レントはユウコと会話するときに自分にはしない笑顔を向ける。
きっと2人は相思相愛なのだ。
わかったよ。
ごめんね。
そう言って終わるはずだった。
しかし、マミちゃんが口を開きかけたその時、ユウコは教室を出て行ってしまったのだ。
「あっ」
呼びとめようとしたが、また強いメマイを感じてその場に膝をついてしまった。
グルグルと世界が回る。
マミちゃんはユウコが学校から出るまでに立ち上がることができなかったのだった。
☆☆☆
このとき、レントは誰とも付き合っていなかった。
そう、誰とも……。
翌日学校へ行くと、マミちゃんの机にはマジックで落書きをされていた。
ブリっ子。
ヤリマン。
死ね。
「なんで……」
思わず、か細い声が漏れていた。
クスクスと笑い声が聞こえてきて振り向くと、ユウコたちの3人グループがこちらを見ていた。
「ユウコ?」
唖然として名前を呼ぶ。
ユウコは無言で席を立ち、教室から出て行ってしまった。
この変化を派手なグループが見逃すはずがなかった。
日ごろからマミちゃんへ嫌悪を抱いていた彼女たちは、それをイジメという形で大々的に行い始めたのだ。
教科書やノートに落書きされる。
上履きを切り刻まれる。
机の中にゴミを詰め込まれる。
そんなことが毎日のように行われるようになった。
クラスの女子の半数が関わったイジメだ。
マミちゃんは次第に誰が犯人なのか分からなくなっていった。
普段自分に優しくしてくれていた男子たちも、誰も手を差し伸べてくれなかった。
そんなある日だった。
午後から体調を崩していたマミちゃんは放課後になってようやく教室へ戻ってきた。
その時偶然、ユウコがひとりで教室に残っていたのだ。
2人の視線がぶつかりあう。
マミちゃんは一瞬呼吸が乱れたが、ゆっくりと自分の席へと向かった。
すると、数時間前までは書かれていなかった落書きがされていた。
死ね。
ブス。
もう聞き慣れた言葉になっていた。
「ユウコじゃないよね?」
マミちゃんはかすれる声で聞いていた。
一瞬ユウコの両目が大きく見開かれた。
「あたしはレントのことが好きだった。でも、きっとユウコの方が似合うと思って――」
「黙れ。病院に戻れよ!」
最後までえ言わせてももらえなかった。
きっと、マミちゃんの言い方も悪かったんだ。
『ユウコの方が似合う』
それじゃ、見下しているように感じてもおかしくなかった。
現に、ユウコの顔は怒りで真っ赤に染まっていた。
最初からユウコが勝つ勝負だった。
それでもユウコからすれば、ちゃんと戦ってほしかった。
本当にレントのことが好きならば……。
「あの時、どうして言い返さなかったの?」
「それは……」
マミちゃんは何も言えなかった。
あの場で倒れていたなんて言えば、ユウコが気にするに決まっている。
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