第47話

(さっきの先生、ちょっと怪しんでたよね……)



あまり派手なことをしていると、もう鍵を貸してもらえなくなってしまうかもしれない。



そしてやってきた倉庫室。



鍵を開けてドアを開くと、とたんに埃っぽさが体を包み込んだ。



思わずその場でむせてしまう。



最近は誰も足を踏み入れていないようで、床は白っぽく埃がつもっている。



そして先生が疑問に感じていた通り、ここに置かれているのはほとんどがガラクタだった。



文化祭で使った道具とか、木片とか、そういうものが散乱している。



とても授業で使うようなものは保管されていないのだ。



「人なんていないじゃん」



足を踏み入れることもためらわれて、梓は入口の前に立って教室内を確認して言った。



「本当だね」



玲子も頷いている。



けれど、厚彦は違う。



「いや、いる」



と、短く言うと、ズカズカと教室へ入っていくのだ。



最も、厚彦はすでに幽霊だからどれだけ歩きまわってもホコリは舞い上がらない。



「もう、ちょっと待ってよ」



梓はブツブツと文句を言いつつ、仕方なく教室に入って行った。



カーテンの隙間から太陽の光が差し込み、教室に舞い上がったホコリをキラキラと輝かせている。



「こんなところに誰がいるの?」



厚彦へ向けて質問すると、「男子生徒だ」と、答えが返ってきた。



むろん、その姿は梓にも玲子にも見えない。



相手は生きた人間ではないのだ。



「厚彦くん、なんて言ってるの?」



玲子に厚彦の言葉をそのまま伝えると、玲子は軽く身震いをした。



好奇心から幽霊の手助けをしようと言っていても、実際に近くに幽霊がいるとわかると、怖くもなる。



そんなことをしている間に厚彦は教室後方にたどり着いていた。



そこには乱雑に積み上げられた机や椅子があるばかりだ。



「この教室ってやけに窓が大きいね」



歩きながら玲子がふと気がついて言った。



確かに、ここは通常の教室よりも窓が大きいみたいだ。



梓は教室後方の窓に近づき、カーテンを開いてみた。



窓の向こうに見えるのはグラウンドだ。



「へぇ、見晴らしがいいね」



玲子が梓の隣に来て言った。



この教室で授業を受けていたら、外の景色を楽しめそうだ。



教室前方には黒板もあるし、もともとはちゃんと使われていたのかもしれない。



「君、名前は?」



そんな声が聞こえてきて視線を向けると、厚彦がなにもない空間へ向けて話かけていた。



「リュウヤさんっていうのか」



そう呟き、頷いている。



どうやらそこにいる誰かの名前みたいだ。



「どうしたの梓?」



「そこにいるみたい。名前はリュウヤさんだって」



梓が伝えると、玲子はマジマジと何もない空間を見つめた。



それはもう目が飛び出るのではないかと心配になるくらい、必死に。



「ダメだ。あたしには何も見えない」



ふぅーと大きく息を吐き出し、落胆した声を上げる玲子。



(そりゃそうでしょうよ)



梓は半分呆れつつ、厚彦に近づいた。



「そのリュウヤさんって人は、やっぱり成仏できずにここにとどまってるの?」



梓の質問に厚彦は「恐らくは」と、頷いた。



しかし、相手は自分の名前しか言わないようだ。



これはユキオさんの時と同じパターンかもしれない。



自分のことをあまり話したがらないから、その周辺から調べていくしかないのだ。



「リュウヤさんはジッとグラウンドを見つめてる」



そう言われて、梓は窓へと視線を向けた。



今は誰もグラウンドへ出てはいないけれど、授業が始まれば沢山の生徒で埋められるだろう。



そういう光景を、リュウヤさんはどんな気持ちで見ているんだろう?



意外と楽しんでいるのかもしれない。



だから、なかなかここから離れることができないとか。



心の中で勝手な想像を繰り広げていた時だった。



いつの間にそんなに時間が経過したのか、授業開始のチャイムが鳴り始めてしまったのだ。



梓と玲子は顔を見合わせ「やばい!」と呟いて走り出す。



鍵を返すような時間はないけど、仕方ないよね!?



梓は倉庫の鍵を握り締めたまま、教室へと急いだのだった。

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