第48話
☆☆☆
昼休憩になったのを見計らい、梓と玲子、それに厚彦の3人は再び倉庫へ向かっていた。
鍵をかける暇もなかったけれど、誰か他の生徒が入った形跡はなかった。
「まだそこにいるの?」
梓が聞くと、厚彦は頷いた。
しかし、相変わらずリュウヤさんはなにも話してくれないのうで、無駄な時間ばかりが過ぎて行く。
「ねぇ、これってガラス片?」
意味もなく倉庫内をうろついていた玲子が足をとめて聞いてきた。
近づいて確認してみると、太陽の光でキラキラ光っているガラス片が散らばっているのがわかった。
「本当だね」
そう言い、梓は首をかしげる。
ガラス片は教室後方に掃き集められたようになっている。
でも普通、ここまでしたならゴミ箱に捨てるよね?
どうしてこのままになってるんだろう?
些細な疑問を感じた瞬間だった。
窓は閉まっているのにサァッと風が吹いて梓の前髪を揺らした。
(え?)
驚いて振り向くと、そこには厚彦が立っている。
厚彦はジッとなにもない空間を見つめ、時折なにか話かけている。
(今のは厚彦のせいじゃないよね?)
だとすれば、もう1人そこにいるリュウヤさんの力……?
「リュウヤさんは、なにかを伝えたいんですか?」
梓は厚彦の隣に立ち、リュウヤさんへ向けて話かけた。
しかし、なにも聞こえてこない。
「ダメだ。なにも言わない」
厚彦も隣りで左右に首をふる。
「なにかあるなら、あたしたちお手伝いします」
それでも反応は帰ってこなかった。
「幽霊に心を開いてもらう訓練が必要かもね」
諦めて倉庫から出たとき、玲子がそんなことを言い出した。
「そんな訓練どうやってするの?」
梓は呆れて聞き返しながら、鍵をかける。
「だって、なにも話してくれないんじゃ、成仏させてあげられないじゃん」
「そうだけどさ……」
自分たちは霊媒師ではないのだ。
ただの一般女子高生ができることなんて、もともと限られている。
「リュウヤって名前だけで探しだすのは難しいと思うよ?」
玲子の言葉に梓は頷いた。
確かに、今回ほど情報が少なかったことは今までない。
ユキオさんも口数は少なかったけれど、バスケ部の部員という大きなヒントがあった。
でも今回は倉庫の中にいるリュウヤさんという情報しかない。
「鍵を返しにきました」
職員室へ向かってそう言うと、A組の担任の先生が近付いてきた。
「お前たち、どうしてこの鍵を持って言ったんだ?」
怪訝そうな表情を浮かべる。
「えっと、それは……」
鍵を貸してもらうときには『授業に使うものがある』と嘘をついたが、担任の先生にそれは通用しない。
なにより、あの倉庫に入ったあとだから、授業に使えそうなものがないことをすでに知っていた。
それでもなにか返事をしなきゃいけないので、口を開いたその時だった。
「あそこは危ないから、ガラクタ置き場になってるだろう?」
と、先生が言ってきたのだ。
「危ない?」
玲子が眉間にシワを寄せて聞き返した。
あの教室を思い出してみても、危ない要素は思い浮かばなかった。
そりゃガラクタは沢山あったし、ガラス片が片付けられていないままだったりしたけれど、先生の口ぶりではそうなる前から『危なかった』という感じた。
一瞬、リュウヤさんという幽霊があの教室にいることを、先生が知っているのではないかと思った。
大人しそうに見えて沢山ポルターガイストを起こしたから、教室としては使われなくなったのかと。
しかし、先生の話を聞いているとそれは見当違いであることがわかった。
「昔、あの教室で事故があったんだ」
「事故ですか?」
予想外の言葉に梓は眉間にシワを寄せた。
玲子もなんのことかと首をかしげている。
「あの教室は元々美術部のものだったんだ。普通の教室より窓が大きいのは外の景色を描きやすくするためだった」
そう言われて梓は納得した。
「グラウンドがよく見えますよね」
玲子の言葉に先生は頷く。
「そう。部活動をしている生徒たちの姿をしっかり描くことができる。でも、それがあだになったんだ」
「どういう意味ですか?」
梓は更に質問をした。
もう少しでなにかわかりそうだ。
「ある日いつものように美術部は活動していた。もちろん、他の部活もだ。グラウンドではサッカー部が練習をしていた」
梓と玲子は先生の話に静かに耳を傾ける。
厚彦も、今は真剣な表情をしている。
「その時、サッカー部のボールが美術部の窓に当たって、割れてしまったんだ。その時不幸にも、窓際でサッカー部の様子を描いていた生徒がいた。ボールは生徒に当たらずにそれたけれど、窓ガラスは割れてしまったんだ。あの大きなガラスが割れて破片が飛び散ったんだ」
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