第31話

「ちょっと玲子、どうしたの?」



「だって、まるで夢みたいなんだもん」



玲子はまだフワフワとした表情だ。



「そりゃそうだよね。あたしだっていまだに信じられないし」



梓は返事をして厚彦へ視線を向けた。



厚彦は漫画を読んでいるクラスメートの膝の上に座り、勝手に一緒に読んでいる。



クラスメートは霊感がないようだからいいけれど、これが見える人だったらおおごとになっているところだ。



当の厚彦はこの調子なんだからあきれてしまう。



「それで、これからどうするの?」



「そうだなぁ。とりあえずユキオさんが誰なのか特定できた。カナさんの時は実家にまだ両親が暮らしていたから話ができたけど、今回も同じとは限らないし……」



そこまで言って梓は「う~ん」とうなり声をあげた。



どうするのが適切なのか判断できない。



「じゃあ、バスケの顧問に話を聞いてみるとか?」



「でも、先生は変わってると思うよ?」



昨日も考えたことだけど、25年も前の先生が今もいるとは限らない。



むしろ、代わっていると考えた方が無難だ。



「それでも、前に顧問をしていた先生の話を聞けるんじゃない?」



「あ、それもそうか」



顧問を引き継ぐ時に会話くらいしているはずだ。



ひとつ前の先生がユキオさんの時代の顧問だったとは限らないけれど、それを繰り返していけばいずれ当時の顧問の先生にたどり着くことができる。



気長な作戦だけど、確実でいいかもしれない。



そうと決まれば後は行動するのみだ。



玲子は人助けをしているときが一番楽しいらしく、休憩時間になるのを心待ちにしている。



「先生! 新聞部です!」



もはや定番の挨拶になりつつある。



昼休憩になったとき、梓と玲子、それに厚彦はまた職員室を訪れた。



「バスケ部の先生はいらっしゃいますか?」



玲子が聞きながら職員室の中を見回す。



そこにタイミングよく体操着姿の男性教員が入ってきた。



「僕になにか用事?」



そう聞く男性教員は30代後半くらいに見える。



体操着の上からも筋肉が盛り上がっていて、バスケ部というよりもボディビルと言った印象だ。



「あ、えっと、バスケ部の先生ですか?」



先生の筋肉におののきながら玲子が聞く。



「あぁ、そうだよ」



「えっと、あたしたち新聞部です!」



「新聞部が、僕に何か用事?」



「実はバスケ部の歴史について調べものをしているんです。先生はいつからバスケ部の顧問をされてるんですか?」



梓が玲子の隣から質問をした。



「なるほど。残念ながら僕はまだ1年目なんだ。去年代わったばかりでね」



薄々感づいていたことだけれど、落胆してしまう。



「じゃあ、その前に顧問をしていた先生のことを教えてくれませんか?」



玲子は更に食い下がった。



「この学校にはもういないよ?」



「それでも、話しだけでも……」



できれば住所を聞き出して直接話を聞きたい。



それがダメなら、アドレスでもいい。



願うような気持でいると、先生は一旦自分の席へ戻り、破いたメモ帳を持って戻ってきた。



「これが先生の名前と連絡先。一応僕の方から先に連絡を入れておきたいから、学年と名前を教えてくれるかい?」



「もちろんです!」



こうして、どうにか以前の顧問にたどり着くことができたのだった。


☆☆☆


放課後になるのを待ち、梓と玲子、それに厚彦はバスケ部の元顧問へ連絡を入れることになった。



先に先生から連絡を入れてもらっているから話は通っている。



そう理解していても、初めて連絡を取るのだから緊張してしまう。



梓はスマホを持つ手がジワリと汗で滲んでくるのを感じた。



そして数コール目。



相手が電話に出た。



「もしもし」



それは中年男性の声で、優しそうな声色をしていた。



「も、もしもし。突然ご連絡して申し訳ありません。和田先生ですか?」



「あぁ。そうだよ。君は?」



慣れない敬語でしどろもどろになりながらも、自分の名前を伝える。



「あぁ。安藤先生から話は聞いてるよ」



今のバスケ部の顧問は安藤先生って言うんだ……。



自分で用事を頼んでおきながら、先生の名前すら知らなかったことを思い出す。



「君は新聞部なんだってね? バスケ部の歴史を調べているのか?」



「そ、そうです!」



安藤先生のおかげで、なんの説明も必要なかった。



話しはトントン拍子に進んでいき、梓たちは学校の近くのファミレスで和田先生と合流することが決まったのだった。

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