第32話

☆☆☆


「やぁ、おまたせ」



ファミレスにやってきた和田先生は白髪で、白い顎ひげを蓄えている。



その他の髭は奇麗に剃られていて、一見バスケ部の顧問というより美術部の顧問と言った感じだ。



「突然およびしてすみません」



梓と玲子、ついでに厚彦は席を立って頭を下げた。



「いやいや、構わないよ。なにか注文するかい?」



和田先生は梓たちの向かい側に座り、メニューを開いた。



「あたしたちは飲み物だけで大丈夫です」



玲子が慌てて言うが「若者はお腹がすくだろう? 遠慮せずに」と、メニューを押し付けられてしまった。



ここで頑なに断ることはできない。



梓と玲子はスイーツを一品ずつ注文することになった。



放課後になってお腹が空いていることも事実だった。



「それで? バスケ部の何が知りたいんだい?」



注文したスイーツが届いてから、和田先生が質問をしてきた。



先生の前にはカフェオレが置かれている。



「えっと……25年前のことなんですけど」



梓がおずおずと話を切り出した。



そんなに昔のことを言われても、和田先生にもわからないかもしれない。



案の定、和田先生は驚いたようにカフェオレから口を離した。



「そんなに昔の話かい? 僕にわかるかなぁ」



困ったように頭をなでている。



「先生はいつからバスケ部の顧問をしていたんですか?」



玲子がチョコレートアイスを一口食べて質問した。



「僕はちょうど10年間顧問をしていたよ」



「そうなんですか……」



10年でも十分長い年月だ。



「でも、その前の先生はもっと長く顧問をしていたみたいだよ」



続いて言われた言葉に玲子の目が輝いた。



「その先生のことって、わかりますか!?」



テーブルに身を乗り出して質問する玲子に、和田先生は目を丸くしている。



「もちろんわかるよ。それにしても、今の新聞部はそこまで熱心だとは感心するねぇ」



和田先生は梓たちが新聞部だということを鵜呑みにしている。



信用してもらえて光栄なのだが、少しだけ良心が痛んだ。



「前の先生はね、もう70代になって引退されているんだよ。」



言いながら、和田先生はスマホをいじってどこかへ連絡を入れてくれているようだ。



「明日の午後なら時間があるらしいけれど、どうする?」



和田先生はそう言い、スマホ画面を見せてくれた。



そこには小池という名前の人とのやりとりが表示されている。



これがさらに昔のバスケ部顧問ということなのだろう。



梓と玲子は目を見かわせた。



乗りかかった船だ。



最後まで見届けよう。



梓はそう決めて、先生に約束を取り付けてもらうようにお願いしたのだった。

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