第30話
☆☆☆
「新聞部です!」
玲子が胸を張って嘘をつく。
その顔はなぜか誇らしい。
「調べ物は終わったの?」
先ほど対応してくれた先生がすぐに近づいてきた。
「はい、ありがとうございます」
梓と玲子は丁寧に資料を返した。
「それと、もう少し調べたいものがあるんです」
「あら、まだ部活をするの? もう遅いわよ?」
先生は時計を見て言った。
まだ6時を過ぎたところだけれど、先生としては女子生徒を長く学校にいさせたくはないのだろう。
「少し調べたら、すぐに帰ります」
「そう? 今度はなにが必要なの?」
「25年前のアルバムと、10年前のアルバムと、5年前のアルバムです」
玲子の言葉に先生は仕方なくアルバムを持ってきてくれた。
どれもユキオという名前の人がサッカー部に在籍していたときのアルバムだ。
ここに本人がいなくても、この年月の後には必ず乗っているはずだった。
今日は、この3冊だけ調べて帰ることになりそうだ。
それから3人は教室へは戻らず、職員室に近い図書室へ向かった。
ここからならすぐにアルバムを返しにいくこともできるからだ。
「早く帰らなきゃ、図書室も閉まっちゃう」
玲子が慌ててアルバムを開く。
隣りに並んで座り、梓と厚彦も調べ始めた。
幸い、図書室にいたのは図書委員の生徒と先生だけだったから、厚彦がアルバムをめくっていても気がつかれることはなかった。
もし他に生徒がいたら、とてもできなかっただろう。
アルバムを確認し始めて10分が経過した時だった。
「あ……っ!」
と、厚彦が声を上げて動きを止めた。
「あったの?」
「この人だ、間違いない!」
厚彦は写真のひとりを指さしている。
そこに映っているのはよく日焼けをした、整った顔立ちをした男子生徒だった。
写真の下に書かれている名前を確認すると、太田ユキオと書かれている。
厚彦が見ていたアルバムを確認すると、それは25年前のものだった……。
☆☆☆
今日はこれ以上の調べ物をやめて、家に帰ってきていた。
梓は勉強机に座り、スマホの写真を確認する。
念のためにアルバムの写真を撮影しておいたのだ。
「当時のバスケ部を知る先生がいれば話が早いけどな」
厚彦が部屋の中央あたりでフヨフヨと浮きながら言う。
「25年も前だもん、きっともう学校にはいないよ」
私立なら長い期間同じ学校に勤めることがあるけれど、公立だと先生の移動は激しい。
25年も昔の先生がまだいるとは思えなかった。
それに、もしかしたら定年退職しているかもしれない。
「そうだよなぁ……。それにしても、梓の友達は面白いな」
突然話題を変えられたので梓は振り返った。
厚彦は逆さまになって胡坐をかいて浮かんでいる状態だった。
本人は重力に逆らうことができても髪の毛だけが垂れ下っていて、スーパーサイヤ人みたいだ。
思わずプッと吹きだしてしまう。
「玲子のなにが面白いの?」
「怖いものが苦手なのかと思ったら、自分で首突っ込んで行くから」
「玲子は困っている人をほっとけないんだよ。それが幽霊でも同じなんだと思う」
梓の説明に厚彦は関心したように「へぇ~え」と、頷く。
「もっと、生きてる間にお前らと仲良くなってればよかったな」
その言葉に梓の心臓がドクンッと跳ねた。
なんだか、嫌な予感がしたからだ。
「急にどうしたの?」
「だって、2人とも面白いじゃん」
そう言ってニッと白い歯をのぞかせて笑う厚彦。
(今の嫌な予感は気のせいだったのかな?)
「なによそれ」
梓は苦笑いを返して、宿題をするため机にプリントを広げたのだった。
☆☆☆
翌日学校へ向かうと玲子が駆け寄ってきた。
「どうしたの玲子?」
「昨日のって夢じゃないよね?」
玲子は梓の両肩を掴んで聞いてくる。
「え?」
「ほら、バスケ部に行ったりとか、調べものをしたりとか!」
「あぁ、うん。夢じゃないよ?」
答えながら梓は笑った。
夢だとすれば、とんでもなく長い夢になってしまう。
「ってことは厚彦くんも……?」
「うん、ここにいる」
梓は横目で厚彦を見て言った。
「そう……なんだ……」
玲子は力が抜けたように椅子に座り込んでしまった。
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