第29話
☆☆☆
梓と玲子、それに厚彦の3人は放課後になるのを待ち、職員室へ向かった。
「新聞部です!」
元気な声でそう言ったのは玲子だった。
自分が新聞部だと偽るのがどこか楽しげだ。
「あら、また来たの?」
対応してくれたのはカナさんのときにアルバムを見せてくれた先生だ。
「今度はなにを調べているの?」
さすが、一度面識ができているから話は早い。
「今度はサッカー部の歴史を振り返ることになったんです」
説明したのも玲子だった。
なにがそんなに楽しいのか、梓には理解できないけれど。
とにかくなにもかも玲子がひとりで説明してくれたおかげで、すんなりと資料を受け取ることができた。
それは30年前にバスケ部が作られた時からずっと続く資料だった。
「持てる? 平気?」
30冊分のファイルを渡されて、玲子は目を白黒させている。
慌てて横から半分ファイルを持ち、職員室を後にした。
3人でやってきたのはA組の教室だ。
A組の生徒たちは今日も誰もいなかった。
「さて、これだけの資料からなにを調べるの?」
玲子に聞かれて、梓は厚彦を見た。
なにせユキオさんとコンタクトととれるのは厚彦だけなのだ。
梓に質問を投げかけられても答えられない。
「残念だけど、聞き出せたのは名前だけだった」
厚彦が申し訳なさそうに言う。
「そんな……」
ユキオという名前だけで、この膨大な量の資料から特定するなんて無理に決まってる。
「でも、顔は覚えてる。だからとにかくユキオって名前の生徒を探してほしい」
時間はかかるけれど、そうするしかなさそうだ。
梓は玲子に説明をして、3人で資料を熟読しはじめたのだった。
☆☆☆
資料の中に書かれていたのは、歴代の部員たちの名前、電話番号、住所。
それに大会への出場記録や、部員それぞれの成績だった。
北中高校のバスケ部は残念ながらそこまで有名ではない。
プロ選手を排出したこともないし、大きな大会で優勝したこともない。
けれど、県内ではそこそこの成績を維持し、生徒たちもほとんど趣味程度に楽しんでいる様子だった。
「ユキオって名前の人、以外といないね」
資料に視線を落したまま、玲子が言う。
確かに、よくある名前だと思っていたけれど、それほど多くはない。
今のところ1人しか見つけていなかった。
「厚彦くんはユキオさんの顔を覚えてるんだよね?」
「そうみたいだよ」
厚彦の代わりに梓が答える。
「だけど、この資料だけじゃわからないんじゃない?」
資料の中にある写真は、大会に出たときの集合写真がメインになっていた。
その写真は全部白黒で印刷されていて、この中からユキオさんを探すのは確かに大変そうだ。
「大丈夫だよ。カナさんのときもアルバムを借りることができたから」
梓はカナさんを特定したときの方法を簡単に説明した。
「そっか。昔のアルバムには個人情報が乗ってたんだっけ」
玲子は思い出したように呟く。
そのおかげで、カナさんの事件を解決に導くことができたのだ。
「これで最後かな」
気がつけば太陽は傾き始めていて、資料は最後の一冊になっていた。
それには去年の日付が書かれている。
ザッと目を通し、ユキオという名前がないことを確認した。
「該当者はこの3人か」
厚彦が書きだしたメモを確認して頷く。
名前と、在籍していたときの年を記入してある。
「3人なら、以外と早く見つかりそうだね」
梓の言葉に玲子が頷く。
そして3人は再び職員室へ向かったのだった。
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