第26話

☆☆☆


「驚かせてごめんね」



保健室で目を覚ました玲子に梓は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



誰にも秘密を打ち明けるつもりはなかったのに、厚彦が勝手にバラしてしまったのだ。



「ううん。さすがにビックリしたけど、もう大丈夫」



玲子はそう言うが、顔色はまだ良くない。



ついこの前死んだ同級生が親友に取りついているのだから、驚かない方が異常だ。



「でも、幽霊とずっと一緒にいて梓は大丈夫なの?」



「うん、平気。元々霊感がないせいか、ちょっと寒いなぁと思うくらいだよ」



梓はそう答えて笑ってみせた。



実際に厚彦が近くにいることで困っていることはほとんどない。



しいて言うなら毎回笑わせてくることくらいだ。



「ここにいるんだよね?」



玲子が、梓の右隣のなにもない空間をマジマジと見つめている。



「逆だよ逆」



厚彦がいる場所を教えてあげると、玲子は梓の左隣を集中して見始めた。



目を細めたり、手を伸ばしてみたり。



「う~ん、あたしにはなにも感じないみたい」



一生堅命厚彦の存在を感じ取ろうとしていたみたいけれど、上手くいかなかった。

すると厚彦が玲子の前髪に触れた。



窓も開いていないのに、フワリと揺れる前髪。



「!?」



玲子は驚いて身を引く。



「今、厚彦が触ったよ」



「嘘!?」



「本当。本人は笑ってる」



玲子の反応が面白かったのか、厚彦は隣で声をあげて笑っている。



「物に触れることができるの?」



玲子は驚いて聞いている。



「そうみたい。こちらからは触れられないのにね」



そう言って梓は厚彦の肩を叩いてみる。



その手はすり抜けて、空中を行き来するだけだ。



「それってなんかずるいなぁ」



玲子は首をかしげ、眉間にシワを寄せている。



「あたしたちに霊感があれば、触ることもできたかもね?」


☆☆☆


それからあたしと玲子は教室へ戻ってきていた。



「玲子、体調は大丈夫なの?」



心配して声をかけてきたのはクラスメートのエリカだった。



エリカはオカルト研究部という怪しい部活を1年生の時に立ちあげて、ずっと部長を務めている。



といっても、オカルト研究部の部員はエリカを入れて2人しかいないらしい。



学校側としては部活認定しておらず、エリカが勝手に活動しているだけらしい。



「うん。もうすっかり良くなったよ。心配かけてごめんね」



「それならよかった。急に倒れるから、幽霊にとりつかれたのかと思ったよ」



心底安心したように言うエリカに、梓と玲子は目を見かわせた。



当たらずとも遠からずだ。



「幽霊に取りつかれたら気絶するの?」



玲子が興味深そうに聞いている。



「人とか、霊の種類によると思う。あまりに強い霊だと気絶したまま体を乗っ取られることがあるんだって!」



エリカは目を輝かせて力説している。



「またまた、そんなことあるはずないでしょ」



玲子はまた顔色を悪くして言う。



ついさきほど厚彦が引き起こした心霊現象で倒れたばかりなのだ。



これ以上深い話は禁物だ。



梓は話題を変えようとしたが、先にエリカが口を開いていた。



「あるんだって、そういうことも! それにさ、学校の七不思議とかもあながち嘘じゃなかったりするんだよねぇ」



怖い話を始めるエリカは止まらない。



トイレの花子さんや、夜中の人体模型など、小学校ではやっていた七不思議を列挙していく。



「この学校でもね、不思議な話はあるんだよ?」



不意に真剣な表情になってエリカが言う。



「ふ、不思議な話って?」



玲子は怖いものが好きなのか苦手なのか、話しを進めようとしている。



「最近聞いた話はね、バスケ部の部室に出てくる幽霊のことだよ」



「バスケ部?」



梓は首をかしげて聞き返した。



てっきり、世間でも話題になったカナさんのことを言うのかと思っていた。



「そう! バスケ部の部室で着替えをしていると、どこからかすすり泣きの声が聞こえてくるんだって!」



エリカは興奮気味に言う。



よくある噂話に梓はホッと胸をなでおろした。



もっと信憑性のある話かと思ってビクビクしていたのだ。



なんせ、そんな話になると厚彦が食いつかないはずがない。



カナさんの時みたいに巻き込まれるに決まっている。



「どうして泣いてるんだろう?」



聞いたのは玲子だった。



いつの間にか顔色は戻っていて、今度は深刻そうな顔をしている。



「理由はよくわからないみたい」



ヒョイッと肩をすくめるエリカ。



「泣き声に似た音がしてるんじゃない? 空調のモーター音とかさ」



梓がそう言うと、エリカは腕組みをして首をかしげた。



「そうかもしれないとも思ってるんだよね。でも気になるじゃん。なにか悲しくてずっとその場にとどまってるのかもしれないって」



その言葉に梓はカナさんのことを思い出していた。



カナさんも、自分の思いが届かず、悲しい思いをしていたから屋上にとどまっていたんだっけ。

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