第27話
「そんなの可哀そうだよ!」
不意に玲子が立ちあがり、大きな声をあげた。
クラスメートたちが何事かと視線を向けてくる。
「れ、玲子?」
「ねぇ、助けてあげようよ!」
それは梓と、そして厚彦へ向けられている言葉だった。
「た、助けるって言われても……」
梓はオドオドしながらエリカを見る。
エリカはもうこの話に飽きてしまったのか、他の友人のところに行ってしまっていた。
(ちょっと、勝手に放置しないでよ!)
「玲子、とにかく座って落ち着いて」
梓の言葉に玲子は鼻息を荒くしたまま椅子に座った。
「噂はただの噂だよ? 本当にそこに幽霊がいるかどうかなんてわからないんだから」
「そうだけど……」
梓の言葉に玲子は不服そうだ。
困っている人を無視できないのは玲子の優しいところだけれど、それが幽霊にまで及ぶとは思っていなかった。
「そんなに気になるなら、確認しに行けばいいだろ」
そう言ったのは厚彦だった。
(それはそうだけど……)
正直梓は乗り気じゃなかった。
カナさんの時は偶然うまくいって成仏させてあげることができたけれど、毎回そうなるとは限らない。
むしろ、そういうのって失敗することの方が多いんじゃないかな?
そうなったときどうすればいいかなんて、わからなかった。
「厚彦くんがなにか言ってるの?」
「うん、まぁ……」
梓は曖昧に返事をする。
「ほら、確認しに行かないから教室中の物を浮かせて、ポルターガイストを起こすぞ?」
(それだけはダメ!!)
☆☆☆
結局梓は厚彦に脅される形でバスケ部の部室へ向かうことになってしまった。
「さすがに、昼間は誰もいないねぇ」
バスケ部の部室はグラウンドの隅にあり、プレハブ小屋のようなものだった。
放課後の方が時間が取れるけれど、部活動をする生徒たちに紛れ込むのは難しいので、この時間に来ることになった。
「そりゃあね……」
梓は職員室で拝借した鍵を使って部室を開けた。
またも『新聞部』という嘘を使ったのだ。
バスケ部の部室に入るのは初めてだったが、戸を開けた瞬間いい香りは鼻をくすぐった。
「芳香剤の匂いだね」
想像していた汗のにおいとは違ったので、ちょっと安堵して梓は部室に足を踏み入れた。
電気をつけてみると、奥の壁に背の高いロッカーが20代ほど並んでいる。
その手前には細長いベンチが2つ並んで置かれていて、丸いテーブルも2つ置かれている。
少しなら飲食できるようになっているようだ。
芳香剤は窓際の床に直接置かれていた。
「特に変わったところはないね」
玲子は部室の中をグルリと見回して言った。
梓は頷く。
幽霊の存在を感じた時の寒気はどこにもない。
やっぱり、噂はただの噂だったようだ。
「女子更衣室だし、そんなに長居しない方がいいね」
梓はそう言い、部室を出たのだった。
ひとまず何もなかったことに安心した。
これで幽霊の存在が認められたら、また巻き込まれてしまうところだ。
そう思っていた時だった。
シャラッと音がしたかと思うと、手に持っていたカギが宙に浮いていた。
厚彦が勝手取ったのだ。
「ちょっと、なにするの?」
「男子の部室も確認するんだよ」
厚彦はそう言うと、隣接しているドアへと歩いて行く。
もう一方の鍵を使うと、ドアはすんなりと開いた。
「すごい、今の厚彦くんがやってるの!?」
玲子は感激の声を上げている。
最初は驚いて気絶してしまったのに、もう慣れたみたいだ。
「そうだよ」
梓は頷き、仕方なく厚彦へ近づいた。
そして男子用の部室に入った瞬間、冷気が梓の体を包み込んだ。
思わず入口の前で立ち止まる。
しかし、そこからでも十分部室の中を確認することができた。
中にあるものは女子用の部室と変わらない。
奥の壁に背の高いロッカー。
そしてテーブルに椅子。
ただ、男子の方はあまり臭いを気にしないのか、酸っぱい汗のにおいが残っていた。
でも、問題はそこじゃない。
この冷気の正体だった。
「なんか、寒くない?」
玲子が首をかしげてそう言い、電気を付ける。
電気は問題なくついたが、なぜだか周囲は薄暗く感じた。
明らかに様子が変だ。
梓はゴクリと唾を飲み込んで厚彦を見つめた。
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