第25話

「あ……」



いつもの場所まで来て、梓は驚いた声を上げて立ちどまった。



「どうした?」



厚彦に言われて梓は「あたしにも見える!」と、答える。



梓の目にはグラウンドに立っているカナさんの姿が見えていたのだ。



その姿はキラキラと光っている。



カナさんは梓と厚彦に気がつくと、笑顔で手を振った。



その表情はとても晴れやかだ。



2人で駆け寄っていくとカナさんは深く頭を下げてきた。



「本当にありがとう。あなたたちのおかげで無事にいくことができるわ」



カナさんは年齢よりも大人びた口調でそう言った。



「もう、未練はないんですか?」



厚彦が聞くと、カナさんは大きく頷いた。



「もちろんよ。あなたたちのおかげ」



そう言われるとなんだかくすぐったい。



同時に、もうカナさんと会うことはないのだと思い、寂しさがこみ上げてきた。



「死んだ人間と生きている人間。あなたたち、本当にいいコンビね」



カナさんはそう言うと、最後に満面の笑みを浮かべて消えて行ったのだった。


☆☆☆


梓は机に肘をついて、ボーっと黒板を見つめていた。



さっきから厚彦が黒板の前で逆立ちをしたり、演歌を熱唱したりしている。



けれど、そんなこともあまり頭に入ってきていなかった。



涙を浮かべてお礼を言ってきたカナさんの母親。



自殺を繰り返していたのに、最後には満面の笑顔を見せてくれたカナさん。



2人の顔が忘れられない。



「最近ひとりでグラウンドにいたらしいけど、どうかしたの?」



そんな声が聞こえてきて振り向くと、玲子が立っていた。



いつの間にか登校してきていたらしい。



「え? なにもないよ?」



慌てて取り繕って笑顔を浮かべる。



しかし、玲子は不審そうな表情を浮かべてる。



「嘘ばっかり。なにか隠してるでしょ!」



「か、隠してなんかないってば」



梓は助けを求めるように厚彦へ視線を向ける。



それに気がついた厚彦が近付いてきた。



「友達はごまかせないだろ。いっそ、本当のこと言えば?」



シレッとそんなことを言う厚彦に梓は大きく目を見開いた。



そしてシャーペンを2度ノックする。



ノーの意味だ。



「なんでだよ? 梓のこと心配してくれてるんだぞ?」



(そうだけど、幽霊が見えるなんて信じてもらえるわけないじゃん!)



梓は必死で目で訴えかける。



「そこになにかあるの?」



空中を睨みつけることになってしまった梓に、玲子は更に質問をしてくる。



(まずい……!)



背中から冷汗が流れた時だった。



不意に厚彦が梓のシャーペンを奪い取っていた。



「あっ!」



思わず声を上げる梓。



シャーペンは玲子の前でフヨフヨと浮いて、クルンッと回転したりしている。



「え……」



玲子の顔が一瞬で青ざめた。



「ちょっと、なによこれ」



声が震えて、悲鳴を押し殺しているように感じられる。



「こ、これはなんでもないの! マジックだよマジック!」



慌てて言うが、玲子の顔色は戻らない。



なぜならペンは梓のノートに文字を書き出していたからだ。



《俺、厚彦。実はずっと梓と一緒にいるんだ》



それは紛れもなく、男子の文字だった。



大きくて角ばっていて、クセの強い文字。



それを見た瞬間玲子がポカンと口を開け……そのまま気絶して倒れてしまったのだった。

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