第24話

詳細を追体験してきただけに、胸は痛む。



女性は出来上がったばかりのシチューを小皿に入れると、仏壇へと向かった。



そっと後を追いかけてみると、小ぶりな仏壇にはカナさんの写真が飾られてあった。



それはアルバムで見た少女と同じ顔だ。



「それで、なにがわかったの?」



仏壇に手を合わせて戻ってきた女性が梓の前に座って聞く。



「はい……その前に、カナさんの部屋を見せてもらえますか?」


☆☆☆


想像していた通り、カナさんの部屋は手付かずのまま残されていた。



子供の頃購入してもらったのであろう勉強机。



出窓にはクマのぬいぐるみが並び、ベッドにはピンク色のカバーがかけられている。



どこからどう見ても、女子高校生の部屋だった。



机の上に出されたままのペンケースは、きっとカナさんが最後に遺書を書き、出しっぱなしにしたのだろう。



そのときの光景がまざまざとよみがえってきて、カナは胸がつっかえる思いがした。



でも、ここまで来たのだから立ち止まっている暇はない。



「この部屋、少し拝見してもいいですか?」



「えぇ。いいわよ。でもできるだけ元の状態に戻してほしいの」



女性の気持ちは十分に理解できた。



娘の死の真相が50年経過した今でもわからないままなのだ。



むやみに手を触れることで、更に真相が闇の中に葬られることを怯えているのだ。



梓は頷き、真っすぐクローゼットへ向かった。



そこを開くと、追体験した通り透明ケースが入れられている。



梓はゴクリと唾を飲み込んで、そのケースを引っ張り出した。



「信じてもらえないかもしれないですが、私がさっきした経験を説明させてもらっていいですか?」



梓はケースの奥に手を入れながら聞く。



「あら、なにかしら?」



女性が首をかしげ、興味深そうに聞く。



梓は返事をする前に指先に触れた紙を引っ張り出した。



それはさっきこの目で見た真っ白な封筒で間違いなかった。



長い年月誰にも見つからず、ずっとここにあったカナさんの気持ち。



火の光を浴びていないそれは、劣化することなく存在した。



「これが、カナさんの遺書です」



梓はそう言い、封筒を女性へ差し出した。



「え……?」



女性は呆然とした表情で封筒を受け取る。



その手は少し震えていた。



梓はポツポツと、先ほど自分が体験したことを説明しはじめた。



ちゃんと声が届いているのか、信じてくれているのか怪しい。



だけど、女性は梓がすべてを話し終えるまで、ジッと耳を傾けてくれていた。



そして……封筒に視線を落とした。



女性の手がさっきよりも強く震えている。



梓の話を聞いて、これがカナさんの遺書だと理解したからかもしれない。



梓は女性の横を通り抜けて、アパートを出ようとした。



しかし、腕を掴まれて止められていた。



「お願い。読み終わるまで一緒にいて」



女性は目に大粒の涙をためて、梓へ言ったのだった。


☆☆☆


「50年万前、学校の屋上から飛び降りた少女の遺書が発見されました」



朝のニュース番組で男性キャスターが真剣な表情で原稿を読み上げている。



カナさんの一件はあれから大きなニュースとなり、北中高校はイジメがあったことを認めることになった。



といっても、もう50年も昔の話だ。



カナさんの両親は学校側がイジメを認め、加害者側の人間も謝罪したことで気持が落ち着いたらしい。



50年の年月を経て、ようやくピリオドが打たれたカナさんの事件は、今北中高校へ通っている生徒たちを驚かせた。



「まさか、そんなことがあったなんてねぇ」



「全然知らなかったよね」



校門をくぐると、ニュースのことを話題にしている生徒たちが沢山いる。



梓はそんな子たちの横を通りこして、真っすぐグラウンドへ向かった。

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