第19話

梓がボンヤリと住所欄を見つめていると、厚彦が手を止めた。



マジマジとアルバムを見つめている。



梓も隣りから写真を確認する。



集合写真の右上に四角く切り取られた写真が載せられていた。



名前は飯田カナとなっている。



「その人?」



「あぁ、間違いない」



厚彦は真剣な表情で頷き、後ろの住所欄を確認した。



飯田カナさんの住所ももちろん書かれている。



この集合写真が撮影されたとき、すでにカナさんは亡くなっていたのだろうか?



ふと、梓はそんなことを考えた。



それとも、撮影された日、ただの風邪かなにかで休んだのか……。



どちらにしても、自分には真相を知ることはできない。



「梓、住所メモって」



厚彦に言われて梓は我に返った。



スカートのポケットからスマホを取り出し、住所を撮影する。



ここからそう遠くはない場所だ。



徒歩で行くことができる。



「よし、じゃあ行こうか」



「行くって、カナさんの家に?」



「当たり前だろ」



「でも、行ってどうるすつもり?」



50年も前に亡くなったカナさんの家に行っても、そもそも人が暮らしているかどうかもわからない。



もし誰か暮らしていたとして、一体なんと説明するつもりだろう?



今でもカナさんは学校にいて、成仏できずにいます。



とか?



考えただけでメマイがしそうだった。



「梓、俺たちは今新聞部だ。だから新聞部として取材に行く」



「新聞部って……まさか、過去の事件を追いかけて、とか?」



そう聞くと厚彦は自信満々に頷いた。



(そんなの、カナさんの家族が協力してくれるわけないでしょ!)



そう思ったが、梓は厚彦に背中を押されて渋々教室を出たのだった。


☆☆☆


職員室へ寄ってアルバムを返した梓たちは、そのままカナさんの家へと向かうことになった。



歩いて20分ほどの場所にあるアパートだ。



周囲には取り壊されたビルなどがあり、昔は栄えていたのだろうとうかがわせた。



最近は駅前の施設が充実したものになり、駅から遠いこの周辺は過疎化が進んでいるのだ。



そんな中、灰色のアパートが姿を見せた。



見た目は比較的新しいから、リフォームされているのかもしれない。



その外観に少し安心しつつ、梓はアパートの階段を上った。



住所によれば201号室ということだった。



部屋の前までやってきた梓は表札に書かれている飯田という名字に目を見開いた。



カナさんの名字と同じだったからだ。



「まさか、本当にまだ暮らしてるとか……?」



「ちょうど良かったじゃないか」



厚彦はなんでもないことのように言って、勝手にチャイムを鳴らしてしまった。



部屋の奥からチャイム音が聞こえてくる。



続けて人の足音も。



まだ心の準備ができていなかった梓は数歩後ずさりをして身構えた。



「はい……?」



出てきたのは腰が曲がったおばあさんだった。



80代くらいか、真っ白な頭はきちんとブラッシングされていて、着ている服も小奇麗だ。



「あ、あのっ!」



梓は緊張から声が裏返ってしまった。



「あら、あなたその制服は……」



女性が梓の制服に気がついて目を細めた。



今の北中高校の制服をよく知っているようだ。



「あ、はい! 北中高校の広中と言います」



「高校生の方が、うちになにか用事?」



「えっと、あの……。実はあたし、新聞部で、学校の歴史について今調べていまして……」



しどろもどろに説明する。



できたらカナさんの死について知りたい。



なんて、口が裂けても言えなかった。



しかし……「あら、そうなの」女性は興味深そうな表情を梓へ向けた。



「は、はい。それでえっと……」



「うちの娘も、北中高校の生徒だったのよ」



おだやかな口調でそう言われ、梓の心臓はドクンッと跳ねた。



この人はカナさんのお母さんなのだ。

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