第18話
☆☆☆
手がかりはカナという名前と、50年前の生徒ということだった。
それだけを持ち、梓は職員室へと向かった。
職員室のドアを開けると顧問を持っていない先生が2人ほど残っているだけだった。
「あの、すみません」
梓がおずおずと声をかけると、1年生の担任をしている女性教員が気がついて近づいてきた。
「なにか用事?」
「あ、えっと。あたしたち……じゃなくて、あたし、新聞部の広中と言います。今学校の歴史について調べ物をしていて、それで、昔の卒業アルバムがあれば見せていただきたいなぁと思って……」
これは職員室に来るまでに2人で考えた設定だった。
新聞部というのはもちろん嘘だ。
「あらそうなの? ちょっと待ってね、どのくらい古いアルバムがいいの?」
「できれば50年前とか、その辺のがいいです」
カナさんは50年前にここの生徒だった。
何年生で亡くなったのかまではわからなかったが、その周辺のアルバムを見ればわかりそうだ。
「これね」
先生は気を聞かせてくれて50年前前後のアルバムを3冊出してきてくれた。
表紙は分厚く、深いグリーンだったようだが変色してしまっている。
「ありがとうございます」
梓は3冊のアルバムを持ち、職員室を後にしたのだった。
☆☆☆
それから2人がやってきたのはいつもの教室だった。
今は誰の姿もないから、2人で会話をしていても怪しまれない。
「昔は生徒数が多かったんだね」
今はひと学年A組からC組までしかないが、アルバムを確認してみるとE組までクラスが存在していたことがわかった。
「この辺も子供の数が減ったんだろうな」
言いながら、厚彦はアルバムをめくる。
梓から見れば普通にアルバムを見ているだけだけど、他人が見たらアルバムがひとりでに開いているように見えるはずだ。
人に見られることを懸念した梓は、念のために教室のドアに鍵をかけた。
これで心おきなく調べ物ができる。
「カナって名前の人、結構多いよ」
10分ほど経過したとき、梓が呟いた。
よくある名前だし、名字はわからないままだから該当者が多いのだ。
「俺、顔がわかるから大丈夫」
厚彦はそう言って梓が開いていたアルバムに視線をやった。
(そっか、そう言えばカナさんの顔を見てるんだっけ)
「この中にはいないみたいだな」
そう言って厚彦はアルバムを閉じて、次のアルバムへ取りかかる。
「でもさ、カナさんの卒業時期を調べて、次はどうするつもり?」
「住所を調べて、家に行ってみる」
「住所なんてどうやって調べるの?」
そう聞くと、厚彦はなんでもないようにアルバムの裏側を開いた。
そこには連絡用に生徒たちの個人情報が載せられている。
「あ、そっか。昔はアルバムに住所が載ってたんだっけ」
自分たちの時代にはすでに廃止されていたため、すっかり忘れていた。
「そうだよ。それでアルバムを転売するやつとか出てきたから、廃止になったんだ」
「ふぅん」
確かに、アルバムに住所や電話番号が載っているのは便利だと思う。
疎遠になってしまった友人ともすぐにつながることができるし。
けれど、個人情報がお金になるとわかった今、それは危険な行為だった。
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