第16話

☆☆☆


体操着でグラウンドに出た梓は太陽の光に目がくらんだ。



今日は強い日差しを感じるだけで気分が悪くなる。



まるで自分が吸血鬼にでもなったような気分だ。



ノロノロとウォーミングアップに参加して、スポーツテストの注意点を先生から聞く。



その間も眠気が襲ってきて、ほとんどなにも聞かないまま終わってしまった。



スポーツテストはいくつかの競技を短期間で行い、終わった者から教室へ戻っていいことになっている。



つまり、早く終わらせて教室へ戻れば、そこで眠ることもできるということだ。



それで梓は無駄に張り切ってしまった。



寝不足で重たい体に鞭打ち、誰よりも早く競技をこなしていく。



「梓、体フラフラしてるよ?」



途中で玲子が心配そうに声をかけてきたけれど、構わなかった。



だって、これが終われば眠れるんだもん。



その信念で次の競技へ向かおうとした時だった。



不意に、地面がグラついた。



(え、地震!?)



身構え、倒れないように身をかがめる。



しかし、身をかがめると同時に梓の体は横倒しに倒れていた。



重力に逆らうことができない。



世界がグルグルと回転しているように見える。



(あれ? みんなどうして普通に立ってるの? 地震だよね?)



そんなことを考えている間に玲子が駆け寄ってきた。



「大丈夫!?」



(全然平気だよ。なんだか頭がぼーっとするけど……)



しかし、これは声には出ずに視界は急激に暗くなっていったのだった。


☆☆☆


梓は真っ暗な部屋の中にいた。



ここがどこなのかよくわからない。



だんだん目が慣れてきたかと思うと、自分の部屋であることがわかった。



(なんでこんなに暗いの? 電気、つけなきゃ)



そう思って壁に手を伸ばす。



いつものように電気のスイッチを押すけれど、電球が切れてしまったのか部屋は暗いままだ。



(嘘でしょ。今まで切れたことなんてなかったのに)



昔の電球じゃないのだから、そんな頻繁に切れることなんてない。



それでも寿命は来るから、きっとそのタイミングだったんだろう。



梓はあきらめてベッドへと歩きだした。



体が重たくてとても眠い。



少し眠ったほうがいい。



そしてベッド前まで来た瞬間だった。



足元からスーっと冷気が這いあがってくるのを感じて、足を止めた。



(な、なに……?)



自分の足元を確認してもなにもない。



ただ、全身に寒気が走った。



ここにいちゃいけないと本能的に感じた。



部屋を出るために体の向きを変えようとした、その瞬間!



ガッ!!と、梓の足首を誰かが掴んでいた。



「ひっ!!」



悲鳴を上げて尻もちをする。



青白い手が自分の足首をしっかりと掴んでいるのが見えた。



ズルッズルッと、ベッドの下から何かがはい出してくるような音もする。



「嫌……嫌!」



梓はブンブンと首を左右に振る。



しかし、逃げることはできなかった。



ベッドの下に白い目玉が2つ見えた。



それはじぃーっと梓を見つめている。



そして……「おはよう梓」厚彦の声が、ベッドの下から聞こえてきたのだった。

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