第11話
「俺もわからない。でも、このまま成仏できなかったら、浮幽霊とかになるのかなぁ?」
「なに吞気に言ってんの。せめてあたしから離れてよ! 離れてくれれば、どこに行こうが勝手だから!」
「そう言われてもなぁ……」
厚彦はしぶしぶ立ち上がり部屋を出て行く。
しかし、階段を半分ほど下りたところで気がつけば梓の部屋に戻ってきてしまっているのだ。
どれだけ離れようとしても、同じことの繰り返しだ。
「まさか、このままずっと一緒に生活していくなんてことないよね?」
梓の言葉に厚彦は返事ができなかった。
自分でもこの先のことはわからないのだ。
「とにかくさ、学校内でもコミニュケーションをとれる方法があった方がいいと思うんだ」
厚彦が真剣な表情で言った。
「学校内で?」
「あぁ。会話ができなくても、俺がなにか話をして、イエスならこういうアクションを起こす。ノーならこういうアクションを起こす。みたいなさ」
つまり2人にしかわからない合図を作ろうというのだ。
「それはいいけれど……」
それでも梓は釈然としない気分だった。
いつまでこの生活が続くかわからないから、そのための準備をしようと言われているような気がする。
「イエスなら鼻の頭を一回触る。ノーなら二回」
厚彦は説明しながら自分の中の頭を人差し指で触れてみせる。
「もうちょっと、やりやすいのがいいな」
梓はそう言って鞄の中を確認した。
仲には教科書やノート筆記用具が入っている。
学校内でやっても不自然にならない動作のほうがいい。
「これとか」
梓が取り出したのは普段使っているシャーペンだった。
「イエスなら一回ノック、ノーなら二回ノック」
カチカチッとシャーペンの芯を出して提案してみる。
すると厚彦は大きく頷いた。
「いいんじゃないか? それなら不自然じゃないしな」
「じゃ、これで決まりね」
2人だけの秘密のやりとりか……。
そう考えると、梓の胸になにか妙な感情が芽生えるのだった。
☆☆☆
翌日になっても当たり前のように厚彦はそこにいた。
梓と一緒に学校へ行き、生前と同じように授業を聞いている。
けれど授業に飽きると厚彦は自由気ままに教室内を移動する。
梓とは4メートルほどなら離れることができるから、生徒たちのノートを盗み見したりしているのだ。
「お、太田はさすがだなぁ。もう次のページに進んでる。先生の説明なんて聞いちゃいないな」
ハハッと笑い声を上げる厚彦。
太田はA組の中で一番の秀才だ。
学級委員長なども自らかって出て、みんなのまとめ役をしてくれている。
「こっちは全然勉強してねぇじゃん。なになに? 私の心はあなた一色、寝ても覚めてもあなたの顔がチラつくの……って、これ恋愛ポエムかよ」
厚彦の言葉に「プッ」と噴き出してしまい、慌てて口を押さえる。
厚彦が覗き込んでいたのは筋肉バカの大森くんのノートだ。
まさか、彼がこんなに乙女チックなポエムを書いているなんて、誰も思わないだろう。
「おい広中。どうした?」
こらえきれずに噴き出してしまった梓に、数学の先生が鋭い視線を向ける。
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