第10話

☆☆☆


「梓、大丈夫?」



教室内にはまだすすり泣きの声が聞こえてきていて、目を赤くした玲子が心配そうに声をかけてきた。



どうやら、梓はひとりで泣いていたのだと思い込んでいるみたいだ。



「う、うん。大丈夫だよ。玲子は?」



「大丈夫だけど、やっぱりクラスメートが死んだなんて悲しいよ」



玲子の目にはまた新しい涙が浮かんできている。



それを見てしまうと梓はなにも言えなくなる。



厚彦はここにいるよとみんなに伝えたいけれど、それもできなくてもどかしい。



「そろそろ火葬される時間だな」



誰かが呟く声が聞こえてきた。



(そっか。そんな時間なんだ)



梓は教室の壁にかかっている時計に視線を向けた。



もうすぐ2時が来ようとしている。



「そろそろか……」



厚彦が呟いたので、梓はハッとして顔を向けた。



厚彦は複雑そうな表情を梓へ向けている。



「短い間だったけど、ありがとうな」



いつになく素直な厚彦の態度に梓は視線をそらせた。



今ここで会話はできないし、いなくなってしまう厚彦になんと声をかけていいかもわからなかった。



もう一度教室を出て、2人きりになってみようか。



そうすれば、お別れの言葉くらい言うことができる。



「あ……」



不意に厚彦が自分の体を見つめた。



「え、なに?」



思わず聞いてしまう。



「なにって、なにが?」



玲子がキョトンとした表情を梓へ向ける。



「な、なんでもないよ」



慌てて苦笑いを浮かべて取り繕う。



厚彦はジッと自分の体を見下ろしているけれど、特に変化は見られない。



「今、焼かれてるみたいだ」



(え……)



「体で感じるんだ。辛くはないけど、どんどん体が消えていく感じがしてる」



(そんなことってあるんだ……)



返事をしたいけれど、グッと我慢した。



最後になにかお別れの言葉を……。



「あれ? おかしいな」



突如厚彦が首をかしげた。



自分の手を握ったり開いたりして確かめている。



(どうしたんだろう?)



「俺今、ここにいるよな?」



梓に確認するように聞いてきた。



梓は周囲に気がつかれないように、小さく頷く。



「あれぇ? おかしいなぁ」



厚彦は首をかしげたままブツブツと呟く。



一体なにがおかしいんだろう?



「俺、まだ成仏しないみたいだ」



(は……?)



厚彦の言葉に、梓は目を見開いたのだった。


☆☆☆


厚彦の葬儀は無事に終わり、火葬も終わった。



「なのに、なんでまたここにいるの!?」



自宅へ戻ってきた梓は厚彦の前で仁王立ちをしていた。



「そう言われてもなぁ……」



なんとなく正座をしている厚彦は頭をポリポリとかく。



「葬儀が終わったら成仏するんじゃなかったの?」



「そう思ってたんだけど、なんか違ったみたいだ」



「じゃあ、いつ成仏するの?」



梓の問いかけに厚彦はまた首をかしげる。



本人にもサッパリわからないみたいだ。



「どうするのよぅ……」



厚彦との奇妙な関係はすぐに終わりを迎えると思っていたのに、予想外の展開だ。



梓はベッドに座り込んで頭を抱えた。

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