第8話
厚彦はずっとここにいるのだけれど、玲子には見えていなかった。
「本当に、ビックリだよね……あんなに元気だったのに」
玲子の目にキラリと光る物が見えた。
それほど仲良くなかったといっても、厚彦はクラスメートだ。
悲しくないわけがなかった。
そう思うと、梓の目の奥もジンッと熱を持ちはじめた。
(今は隣にいるけど、明日の葬儀が終わればいなくなるんだ……)
そんな気持ちが浮かんできて、グスッと鼻をすすった。
「おい。俺はまだここにいるぞ」
厚彦が覚めた表情で梓を見つめる。
しかし、梓は返事をしなかった。
もちろん、今は玲子がいるからだ。
ここで返事をしていたら、変な人と思われてしまう。
玲子と梓の間にはしっとりとした空気が流れている。
そんな中、厚彦は梓の額とピンッとデコピンしはじめた。
「おい、無視するなよ! 俺はまだ成仏してねぇ!」
耳元で騒ぐものだから思わず「うるさいな!」と、怒鳴ってしまった。
怒鳴られた厚彦は驚いた表情で梓から身を離す。
けれど、突然怒鳴ったことに驚いたのは玲子の方だった。
「ご、ごめん。そんなにうるさかった?」
申し訳なさそうに言う玲子に、梓は慌てて左右に首を振った。
「ち、違うの。玲子は全然うるさくなくて、厚彦が……」
「厚彦? 厚彦って手代くんのこと?」
「あ、えーっと」
なんと言い訳をしていいかわからなくて、混乱し始める梓。
厚彦はそんな梓を見てお腹を抱えて笑っていたのだった。
☆☆☆
玲子が帰って1時間ほどすると、両親も旅行から戻ってきていた。
沢山のお土産がリビングのテーブルに広げられ、家族3人の団らんの時間。
その中には当然のように厚彦が混ざっていたが、その姿は両親にも見えなかった。
「あ、そういえば明日葬儀なの」
今日家にいなくて何も知らない両親に、梓は昨日厚彦が亡くなったことを説明した。
「嘘でしょ。そんなことがあったなんて……」
母親は青い顔をして梓に送られてきたメッセージを確認している。
「交通事故か、可愛そうにな……」
父親もさっきまでの賑やかさを消して、深刻そうな顔になる。
どういう経緯があったにせよ、10代の死は若すぎてとても重たい。
そのことを梓は改めて実感した気がした。
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