第7話

☆☆☆


今日も学校へ行く日だったが、登校時間になっても梓は自分の部屋にいた。



両親は今日の夜まで帰ってこないし、なにより厚彦を抱えたまま登校する気にはなれなかった。



もし厚彦と一緒だとバレたら、学校内は大混乱に陥るだろう。



なんせ、厚彦はもう死んでいるのだから。



「そんなに難しい顔して、なに悩んでるんだよ?」



今後の対策を考えていた梓に厚彦が聞く。



「悩むに決まってるでしょ。あ、厚彦はもう死んでるんだから」



呼びなれない名前に苦戦する。



「そりゃそうだけど、悩んでても仕方ないだろ? 死んだものは死んだんだから」



死んだ本人はすでにケロッとしていて、本棚から勝手にマンガを取り出して読み始めてしまった。



「だけど、どうして厚彦はあたしのところに来たの?」



「さぁ……なんか、波長があったとかじゃないか?」



厚彦本人もよくわかっていないみたいだ。



生前から特別仲が良かったわけでもないし、梓には霊感もない。



不思議なことだった。



「それで、厚彦はいつまでここにいるの?」



その質問に厚彦は漫画から視線を上げた。



「どうなんだろうな? 葬式が終わるまでとか?」



「そんなこともわかってないの?」



「だって、俺幽霊になったの生まれて初めてだし」



それもそうか。



と、なんだか納得しそうになってしまう。



「厚彦の魂はまだこの世にある。だからここにいるって感じでいいんだよね?」



「たぶんな」



「お葬式はいつ?」



「今日が通夜で、明日じゃないかな?」



「そっか……」



葬儀が終われば厚彦は天に昇ってくれるのかもしれない。



とすると、厚彦がここにいるのは明日までだ。



「なんだ、そっか」



それくらいなら我慢できると思い、安堵する。



「なんだよ。早くいなくなってほしそうだな」



「だって、幽霊と一緒だなんて、どうすればいいかわからないもん」



「冷たいなぁ梓は」



そう言いながらも特に気にする様子もみせず、厚彦はまたマンガに視線を落としたのだった。


☆☆☆


夕方になると来客があった。



同じクラスの杉田玲子(スギタ レイコ)だ。



梓とは高校に入学してから仲良くなり、今日は学校を無断欠席したのを心配してきてくれたのだ。



「なんの連絡もなく休むから心配したんだよ」



梓の部屋でハートクッションに座った玲子が言う。



「ごめんごめん。連絡するの忘れてたの」



梓は素直に謝る。



厚彦のことがあって連絡し忘れたのは本当のことだった。



「でも風邪とかじゃなくて安心した」



玲子は本当に安心したように、梓が出した紅茶を一口飲んだ。



「心配かけてごめんね」



「んーん。あたしも、普段ならそんなに心配しないんだけどさ……」



そう言って言葉を切り、カップを見つめる玲子。



「なにかあったの?」



玲子は驚いた顔を梓へ向けた。



「なにかって、クラスメッセージ見たでしょう?」



「あ、そっか……」



そう言われて厚彦が死んだことを思い出した。



クラスメートの突然の訃報があった日だから、玲子は余計に心配したみたいだ。



「そっかって梓……」



忘れていた梓に玲子は呆れ顔だ。



「明日はお葬式だよ」



「うん。そうだよね」



梓は何度も頷く。



そしてチラリと隣に座っている厚彦へ視線を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る