第5話
☆☆☆
翌朝、スマホのベルの音で梓は目を覚ました。
ベッド横のサイドテーブルに手を伸ばしてスマホを手繰り寄せ、眠い目を無理やりこじ開けた。
昨日眠ったのがいつもより早い時間だったことに加えて、今はまだ6時台だった。
「なによ、こんな時間に……」
寝ぼけ眼をこすって確認すると、2年A組のクラスメッセージが点滅している。
「クラス連絡?」
といってもよほどのことがないとこんな時間にメッセージが入ることはない。
台風で学校が休みになったときくらいなものだ。
梓は上半身を起こし、ふと視界にダンボールが入った。
同時に昨日の出来事を思い出して「あっ」と、呟く。
そういえば昨日奇妙なことがあったのだ。
クラスメートの厚彦が突然梓の部屋に現れて、自分は死んだとか、なぜだか梓にとりついて離れられなくなったとか、意味不明なことを言い始めた。
なんとかして厚彦を家の外へ追い出そうとしたのだが、それもうまくいかず、仕方なく家に泊めることになったのだった。
そこまで思い出した梓はそっとダンボールの上から確認してみた。
そこには昨日梓が用意した毛布にくるまって眠っている厚彦の姿があった。
「夢じゃなかったんだ……」
呟き、スマホに視線を落とす。
そこに書かれていた内容を読むと、みるみる目が覚めて行った。
「ちょ、ちょっと起きて!」
ダンボールで作った壁を自ら破壊し、厚彦をたたき起そうとする。
しかし伸ばした手は厚彦の肩辺りをすり抜けてしまった。
体のバランスを崩して厚彦に馬乗りになる形になってしまう。
その瞬間厚彦の寝顔が目の前に来てドキリとした。
(ふ、不可抗力だから!)
心の中で自分に言い訳をして慌てて起き上がる。
「ちょっと、起きてよ!」
さっきより大きな声で言うと、厚彦が寝返りを打ち、そして目を開けた。
目の前で仁王立ちをしている梓を見て目をパチクリさせている。
「あ、そっか」
数秒の沈黙があった後、厚彦が何かを思い出したようにパンと手を叩いた。
「俺、昨日死んだんだっけ」
そう言いながら上半身を起こしてボリボリと頭をかく。
「それ、本当のことだったんだね」
梓はそう言って厚彦にスマホを見せた。
そこには2年A組の緊急連絡として、昨日の夕方厚彦がトラックに轢かれて亡くなったということが書かれていた。
「あ~あ、これでクラス全員にバレたかぁ」
厚彦はのんきにあくびをしている。
「ねぇ、クラス全員であたしをドッキリにかけてるとかじゃないよね?」
厚彦の緊張感のなさに梓が聞く。
厚彦は「ははっ」と笑い声を上げて「こんな大がかりなドッキリなんてするわけないだろ」と、言った。
それもそうか……。
それでも信じられなくて、梓はマジマジと厚彦を見つめた。
いつも教室内で友人たちを騒いでいる厚彦と、なんら変わりはないように見える。
体が透けているわけでもないし、足もちゃんとついているようだし。
だけど、この体に触れることはできないのだ。
それが不思議な気分だった。
「なんだよ。そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいだろ?」
厚彦は自分の胸元まで布団を手繰り寄せて言った。
「だって珍しいんだもん。それにさ、これから先どうする気?」
「どうするって言われてもなぁ……」
梓の言葉に厚彦も困っている。
「とにかく、今の俺は広中さんから離れることは不可能だ。だから、もっと仲良くなる必要があると思う」
突然の提案に梓はポカンとしている。
「仲良くなるって言われても……」
生きている間ならそれもできただろうけれど、相手はすでに幽霊だ。
今からどうやって仲良くなればいいかわからない。
「まずはお互いに下の名前で呼ぶって言うのはどう?」
「下の名前……」
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