第99話 隣国ダリルズ

 とても久しぶりに感じる、貴族のご令嬢たちのお茶会がおこなわれていた。


「隣国ダリルズの視察!?」


 少女たちの驚きの声が響く。


 場所は私の家の庭園。


 参加者はいつもと変わらない、私、アルメダ、エルス、リンの四人だ。


 私はびっくりしている三人に、もう一度、ゆっくりと伝える。


「ええ。お父様からこの国の貴族として、隣国ダリルズの視察に行ってもらえないかと相談を受けたわ」


 隣国ダリルズ。


 蒸気都市メインハールズを首都に据えた中規模の国である。


 国境には大きな河川があり、辿り着くまでは十日ほどかかるだろう。


 隣国ダリルズはスキルによる人間社会の始まりの地と言われている。


 それまではただ、己の身体のみで生活を送っていた人間たちがスキルを得るようになった過程。


 それを隣国ダリルズの神話や残された古びた資料などから感じてこいというのが、お父様からの依頼だった。


 そして、その知識をこの国のスキル社会の発展に役立てるーーそれが表向きの理由ではあるが、スキル枠無限について、何かわかるかもしれないというのがお父様の裏の考えでもあった。


 赤フードの姿で、お父様にそこまでたくさんのスキルを見せたわけではない。


 だが、今までの噂や実際の功績から、私が無限スキル枠を持っているという答えまでお父様は辿り着いていた。


 エルバルク家には無限スキル枠についての伝説も残っている。


 結びつけるのは、実はそこまで難しい話じゃない。


 ということで、私は自分の力について理解を深めるため、ダリルズへの視察を提案されたということだ。


 私は一人で行くのだと勝手に思っていたのだが、それについてもお父様から提言があり、だからこそ、お茶会でまずこの話題を切り出した。


 紅茶を一口飲んでから言う。


「それでなんだけど……みんなも一緒に来ない?」

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