第115話 勇者と魔王と諦念

「では、皆様。本当にありがとうございました」


 そして、それから数時間程で、オークの集落のオーク達は身支度を整えてしまったようだった。


 長老は俺たちに対して深く頭を下げる。


「このご恩は決して忘れません。もし、何か我々でお手伝いできることがあったら、どこにいても駆けつけますので……」


「いや、儂らは何もしておらぬ……むしろ、お主らをこの土地から引き離すことになってしまって……」


 マオが申し訳無さそうな顔をする。しかし、それに対し長老はニッコリと微笑む。


「いえいえ。本当に我々は感謝しております……いずれは人間たちに退治されてしまうかもしれなかったことを考えると、むしろ、離れる機会を与えてくれたことに感謝しなければなりませぬ……」


 そう言うと長老は今一度深くお辞儀をする。


「では、これで……」


 そう言って長老は今度こそ、深くお辞儀をして、他のオーク達と一緒に行ってしまった。


「俺が悪いことをしたって思いますか?」


 オーク達を見送っている最中に俺はマオに訊ねる。


 マオは少し驚いたように俺のことを見ていたが……ゆっくりと顔を横に振った。


「……いや。ソーマが悪いということはないじゃろう」


「では、誰が悪いのですか? 町のゴロツキですか? それとも町の人間全員?」


 俺がそう言ってもマオは首を横にふる。俺は少し苛ついてしまった。


「誰が悪いというわけではないじゃろう……仕方のないことじゃ」


「仕方がない? アナタ……この前、狼の魔物の件では怒っていましたよね? この世界ではこれが普通のことなんです。人間と魔物は分かり合えない。分かり合えない存在というのは確実に存在するんですよ」


 俺が少し強い口調でそう言うと、マオは悲しそうな顔で俺を見る。俺はそれを見て少し良い気味だと思ってしまった。


 このポンコツ魔王も、少しこの世界……そして、不変の理屈を理解したのだと思ったからだ。


「……そうじゃな。これが……この世界では仕方のないことなんじゃものな。じゃが……そんな悲しいこと、言わんでほしいのじゃ」


 マオは悲しそうにそう言った。


 その表情を見ていると、なぜかそれ以上は、良い気味だという感情は湧かず、どこか居心地の悪い気分になるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る