第114話 勇者と魔王と不条理

「……な、何を言っておるのじゃ、ソーマ?」


 最初に口を開いたのは、マオだった。


 俺は何も言わずに長老の方を見る。


「……オークの討伐は断ったと言っておったではないか! なのに、なぜオーク達がこの土地を離れる必要があるのじゃ!?」


 マオが怒り気味にそう聞いてくる。しかし、長老は黙ったままだった。


「断った……というより、俺は、依頼してきた人間達を撃退してここまで来ました。彼らは自称自警団を名乗るゴロツキで、倒すのには数秒もかかりませんでした」


「それならば何も問題ないではないか! もう奴らは倒したのだろう? ここに攻めてくることもないだろうに!」


「えぇ。ですが、殺してはいません」


 俺はゆっくりとそう言った。マオもようやく黙った。長老は相変わらず黙ったままである。


「殺してはいないから、彼らのうちの一人は町に逃げていきました。おそらく、オークの討伐を断った男がいたこと、そして、その男がオークの集落に向かったことは、すぐに町中に知れ渡るでしょう」


「……そうなれば……町の人間たちは……」


「間違いなく、大挙してここに押し寄せてくるか、最悪、王都に連絡をとるでしょうね。魔物に味方する腕利きの冒険者がいる、と」


 俺はそう言って今一度長老を見る。長老は話を理解しているようだった。


「いずれにせよ、今度こそ人間たちは本気でここに攻めてきます。だから、アナタ達はここを離れなければならない」


「しかし、ソーマ、お主なぜ……」


 と、その先を言おうとするマオを俺は睨む。マオは言葉を止めてしまった。


「なぜ、依頼してきた人間を殺さなかったのか、なんて言いませんよね? 彼らは確かにゴロツキでクズだった。だけど、魔物の退治を依頼してきたということは、魔物に怯える人間だったということも間違いない。俺はそんな人間を殺すことはできません」


「そんな、お主……不条理なことを……」


 マオはその後も何か言いたそうだったが、そのまま黙ってしまった。


「……わかりました」


 と、ようやく重い口を開いて長老が立ち上がった。


「……旅の人、そして、その仲間の皆さん、ありがとうございます。我々は……この土地を離れます」


 そう言って長老は家の外へ出ていく。その後、俄に外が騒がしくなった。


「……さて。そろそろ俺たちも行きましょう」


 未だに不満そうなマオ、そして、話をずっと黙って聞いていたドラコとセリシアを連れて、俺は家の外に出たのだった。

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