第112話 勇者と魔王と特別
「……えっと、まだ怒っているんですか?」
自警団……もとい、ゴロツキの連中を撃退し、オークの集落に向かっている最中もセリシアは俺から離れた場所をずっと歩いている。
どうやら、セリシアは未だに機嫌が直らないようだった。
「別に怒っていませんよ? それに、どうせ、私はソーマ様にとって、どうなってもいい存在ですから、お気になさらなずに」
……面倒な女……というか、サキュバスである。
あの場面を切り抜けるのに、俺はもっとも最善の策をとっただけである。それなのに、なぜこんな態度をとられなくてはいけないのだ。
「……じゃあ、どうすればよかったんですか?」
俺がそう言うと、セリシアはこちらを見て不満そうな顔をする。
「ソーマ様は、仮にここにいるのがマオ様でも、同じことをしたのですか?」
「……は?」
俺はセリシアが何を言っているのかよくわからなかった。
「だから! 私ではなくマオ様が人質に取られていたとしても、どうなってもいいって言うんですか?」
俺はそう言われて、ふと考える。マオの場合……たぶんセリシアと違ってもっとギャーギャー騒いているはずである。
そうなると、俺がどうでもいいなどといえば、もっと騒ぐはずである。
「いや、マオだったら……同じことはしませんね」
「ほら! やっぱり!」
セリシアがそう言って俺のことを指差す。
「……なんですか」
「思ったとおりです……やっぱりソーマ様にとって、マオ様は特別なんですね……」
「特別って……いや、そりゃあ、あのポンコツ魔王を王都まで連れて行かないといけないわけですし……安全が確実保証される方法を取りますよ」
「……ホントにそれだけですか?」
信用できないという目で俺を見るセリシア。俺は流石にもう付き合いきれないので放って、オークの集落への道を急ぐ。
「あ! ソーマ様! 待って下さい!」
……特別でもなんでもない。マオも、セリシアも、ドラコも、俺にとっては本当にただの連れ添いでしかないのだから。
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