第111話 勇者と魔王と酷すぎる

「いいですよ。別に」


 そして、俺は即座にその妙案を実行することにした。


「……は?」


 そう言って驚くリーダーと、目を丸くするセリシアに、俺は笑顔で答える。


「だから、別にいいですよ。その人、どうなっても」


 俺はそう言って、背中を向ける。


「お、おい! マジで言ってんのかよ!?」


 リーダーが俺を呼び止める。俺は振り返る。


「えぇ。別に仲間っていうか……ただの連れ添いですから」


「いや、そうかもしれないが……でも……」


 リーダーはセリシアのことを見る。セリシアは、泣いていた。


 ポロポロと涙を流しながら黙って泣いていたのである。


「お、おい! いくらなんでも酷すぎるだろ! 泣いているぞ!」


「知りませんよ。だいたい、アナタが人質にしているからこんなことになっているんでしょ?」


「そ、それは……そうかもしれないが……」


 リーダーは明らかに動揺しているようだった。どうやら、もうひと押しのようである。


「それに、その人……人間じゃないですよ」


「……は?」


 リーダーがまたしてもポカンとした顔で俺を見る。


「サキュバスですよ。サキュバス」


「サキュバスって……あの魔物の?」


「えぇ。まぁ、雑魚ではあるんですが、一応はサキュバスですよ。大丈夫ですか? そんな近くにいて」


「……は? ど、どういうことだよ!?」


「サキュバスといえば、人間を魅了する魔物です。俺は耐性があるんで大丈夫ですけど、アナタは大丈夫なんですか?」


「え……いや、俺は――」


「サキュバスに魅了された人間は身も心もサキュバスに捧げてしまい、最後には破滅するそうですけど……本当に大丈夫ですか?」


 俺がそう言うと同時に、泣いていたセリシアが、リーダーの方を見る。リーダーもセリシアと目が合った。


「ひっ……ひぃぃぃぃぃ!!!」


 目があった瞬間、そう言うが早いか、リーダーはセリシアを放って、一目散に逃げていってしまった。


 俺は引き返して、地面に呆然とした状態で座り込んでいるセリシアに近付いていく。


「大丈夫でしたか?」


 俺がそう言って訊ねると、セリシアは急に目つきを鋭くして俺を睨む。


「……酷すぎます。ソーマ様」


「そうですか? 見捨てなかっただけ、マシだと思いますけど」


 俺がそう言っても機嫌は直らないようで、セリシアは立ち上がると怒りながら歩き出した。


 いずれにせよ、これで問題は一応は解決したようであった。

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