第62話 勇者と魔王と束縛

 そして、翌日にはいよいよ次の村に着きそうという、夜であった。


「……セリシアを縛るのじゃ」


 と、焚き火を囲っていた時に、マオがいきなりそんなことを言いだした。


「え……ま、マオ様? 今なんと?」


「お主を縛ると言ったのじゃ。儂は本気じゃ」


 そう言うと、どこから持ってきたのか、マオは縄を手にしていた。


「……なぜ縛るのです?」


 ダメ元で俺はマオに聞いてみる。


「当たり前じゃろ! 破廉恥な関係にあるお主らが破廉恥な行為に及ばないようにじゃ!」


 至極真剣な表情でマオはそう言う。俺としてもこれ以上は反論しても無駄だということを理解した。


「破廉恥な行為って、何?」


 ドラコがセリシアに訊ねる。


「えーっと……どんな行為ですかね? ソーマ様」


 ……サキュバスがそれを聞いてくるのか、と俺は呆れてしまった。


「とにかく! 大人しくお縄に就くのじゃ!」


 そう言って、マオは乱暴にセリシアをぐるぐる巻きにする。


「ふ、ふふ……悪くは……ないですね」


 そして、なぜか縄で縛られて嬉しそうなセリシア……俺が突っ込むのも限界を迎えようとしていた。


「ソーマはなるべくセリシアを離れて……儂に近い方で眠るのじゃ」


「え……なぜです?」


「と、とにかくじゃ!」


 我儘魔王様はとにかく、そうしないと気が済まないようである。


「……わかりましたよ」


 俺は渋々、マオの言うとおりにすることにしたのだった。

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