第52話 勇者と魔王と夢魔
「……アナタ、なんでここにいるんです?」
「なんで? フフッ。どうやらソーマ様はここがご自身の夢であると認識していらっしゃるようですね?」
シスターはニヤニヤしながら俺にそう言う。なんだか、礼拝場で話したときとは雰囲気が違うようにも思える。
「そういえば、サキュバスは人間の夢の中に入ってくるという話を聞いたことがありますね」
「えぇ。その通りです。サキュバスはそもそも夢魔ですから、人間の夢の中に入って人間の欲望を吸収するんです」
……完全に迂闊だった。相手がサキュバスならこの手法を取ってくることも考慮しておくべきであった。
「それじゃあ……アナタもそうするつもりですか?」
俺がそう言うと、シスターはムッとした顔をする。
「違います! 私は聖職者ですよ? そんなことをするはずがありません! それに! 私はそもそも、元々はサキュバスではなかったのです!」
「じゃあ、なんだったんですか?」
俺がそう聞くと、またしてもシスターは悩んでしまう。どうしても、そのことだけは言えないようである。
「……まぁ、いいです。俺から欲望を吸収しないなら、なんで夢の中に現れたのです?」
「それは……アナタのことをよく知りたかったからです。先程のお話を聞いて、どうしてそこまで冷酷なのかと思いまして……」
「あぁ……別に、理由なんてありませんよ。俺自身だってわかっていないし」
俺がそう言うとシスターはしばらく悲しそうな顔をしたあとで、いきなり俺の手を握ってくる。
「そんなの悲しすぎます! 私が……私がなんとかしますから!」
「はぁ? いや……別にアナタにどうしてもらいたいとも思っていないのですが……」
と、俺が拒否しようとしても、シスターはニッコリと微笑む。
「大丈夫です。これから、長いお付き合いになりますから」
俺がその言葉を疑問に思っていると、段々と光景がぼやけてくる。
いつのまにかシスターの姿も見えなくなって……夢の世界は霧消してしまったのであった。
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