第33話 勇者と魔王と教会

「……い……るんじゃ? ……おい!」


 聞き覚えのある声で俺は目を覚ます。


「まったく……いつまで寝ておるんじゃ! お主、たまに寝坊助になるのぉ。勇者が聞いて呆れるわ」


 俺は身体を起こして、マオのことを見る。


「な、なんじゃ……お主がずっと寝ているのが悪いんじゃぞ?」


 ……マオの声。どこかで聞いたことがあると思っていたが……夢に出てきた女の子の声に似ている。


 それはつまり、マオが、俺が転生する前の記憶に出てくるってことだが……あり得ない。相手は魔王だ。ただの勘違いだろう。


「……すいませんね。最近、疲れているみたいで」


「そ、そうなのか? あまり無理はしない方が良いぞ?」


「えぇ……どこかの誰かさんを王都まで連れて行かないことを考えると……疲れてしまいますよね」


 俺がそう言うとマオはまた頬を膨らませる。


 とにもかくにも、さっさとこのクソ雑魚魔王を王都に連れて行って、お別れするのが正解だろう。


「……それで? いつになったら、人間がまともにいる場所に着くのじゃ?」


「さぁ……人がいるかいないかはわかりませんけど、近くに教会があるみたいですね。行きますか?」


「教会じゃと!? お主、儂をなんだと思っているじゃ?」


「……角が生えた魔族の女の子?」


「違う! 儂は魔王じゃ! 魔族の王じゃぞ! 神を崇める教会など行けるわけないじゃろ!」


「……その次に休めそうな場所、大分先ですよ? 俺は別に休みなしで歩き続けても問題ありませんけど、アナタはいいんですか?」


 俺がそう言うと魔王は悔しそうな顔で俺を睨んでいたが、


「……わかった。まったく……儂をなんだと思っているのじゃ……」


 ブツブツ文句は言っているが結局、教会で休みたいようである。


 そういうところがクソ雑魚魔王である所以なのだろうなぁ、と俺は思ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る