第31話 勇者と魔王と待ち人
「それにしても……王都とやらまではあとどれくらいかかるのじゃ?」
宿屋から出て数日、不満そうな顔でマオは俺にそう聞いてきた。
スキル「千里眼」によって大体の場所はわかっている。
「もう少しで着きますよ」
「……ふむ。今度はもう少し人間が多くいる場所が良いのぉ」
……確かに連続して無人、そして、老人が一人しかいない村を訪れる羽目にはってしまった。
しかも、マオは気付いていないが、老人には襲われかかっているのである。
今度こそ、まともな村か、町であることを願うばかりである。
「そういえば、この前、なんであんな感傷的だったんですか?」
俺はずっと疑問に思っていたことをマオに訊ねてみた。
「な、なんじゃ? いきなり」
「宿屋の老人の話を聞いていた時です。なんだか、随分と物思いにふけるような表情をしていましたよね」
正直、なんでこんなにも気になるのかわからなかったが、聞かなければいけないと思ったので、俺はマオにそのことを聞いてみたのである。
マオは少し恥ずかしそうな顔をしたあとで観念したかのように話を始める。
「……魔王というのは案外退屈だったんじゃ。人間界への侵攻はほとんど配下のものがやってくれたしのぉ」
「あぁ、そういうことですか。単純にアナタが無能で、やることがなかったってだけなんですね」
俺がそう言うとマオは頬を膨らませたが、珍しく反抗してこなかった。こちらとしてもなんだか調子が狂ってしまう。
「なんじゃろうなぁ……儂は、ずっと誰かを待っていた気がするじゃ」
「誰かを? 待っていた?」
「うむ。誰かはわからないのじゃが。儂はその者に会わなければいけないと思っていたのじゃが……」
それからマオはジッと俺のことを見る。その魔族特有の紅い瞳に見つめられるとなぜだか少し恥ずかしい気分になった。
「そんな儂のもとにやってきたのは……お主だったわけじゃ」
「……そうですか。それは、お気の毒でしたね。俺、もう寝るんで」
そう言って俺は横になる。背中ではマオの気配と、パチパチという火が弾ける音が聞こえる。
誰かを待っていた、か……そんなの、気の所為だろう。
俺だって、この世界に転生してきた時、なぜか誰かに会わなければいけないと思っていた。
それが誰かはわからないままに最終的に出会ったのは……マオだったのだから。
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