第30話 勇者と魔王と限界

「うむ! 最高の目覚めだな!」


 そして、翌朝、マオは気持ちよさそうに目を覚ましていた。


「……随分気持ち良さそうに眠っていましたね」


「久しぶりに美味いものを食べたからのお! なんじゃ? ソーマ。お主、あまり眠ることができなかったのか?」


 ……どうやら、マオは何も覚えていない……というか、気付いていなかったようである。


 まぁ、その方が好都合だとは思うが。


「よし! 宿屋の主人に礼を言って、旅立つとしようではないか!」


 元気そうなマオは放っておいて、俺とマオは部屋を出て、宿屋から出ようとする。


 受付には……老人の姿はなかった。


「ん? あの老人はどこに行ったのじゃ?」


 ふと、机の上には金貨が置いてある。俺が老人に差し出した金貨だ。


 それとともに小さなメモ書が置いてある。


「『ご利用ありがとうございました。大変申し訳ございませんでした』……まったく。俺は気にしていないというのに」


「な、なんじゃ? 宿屋の主人はどこに行ったのじゃ?」


「……さぁ。わかりません。もうここで待っているのが限界だったのかもしれませんね」


「限界? ん? ソーマ。あの絵……」


 と、受付場所の隅に、家族の絵が置いてある。どうやら、老人は置いていくことを選択したらしい。


「……ずっと待ち続けるのは……確かに辛いことじゃからな」


 マオが寂しそうにそう呟いた。俺は、もう二度と集まらない家族の絵を一瞥し、宿屋を後にしたのだった。

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